花の盛りに生きた人4/花吐き乙女パロkbnz/
※ジムチャレンジャー時代捏造
※家族設定捏造
続きます。


 花を吐く。ころころと黄色いヒヤシンスが落ちた。ネズを思うと、この頃はこればかりだ。キバナは微笑む。
「はやく、会いたいな」
 ここのところ、ポケモンたちの育成に力を入れていて、ろくにネズに会えていない。また、会いたいな。はやく、会いたいな。声が聞きたいな。薄氷のような目に、見つめられたい。
「すきです、って言いたいな」
 まだまだ、時期は早い。キバナは、純白のユリを吐く夢を見ている。


***


 キバナにキスをされた。ネズは吐いたヒマワリを自宅で処分しながら考える。脈アリということだろうか。しかし、ネズはネズ自身の気持ちに懐疑的だった。本当に自分はキバナが好きなのだろうか。花を吐くから、好きなのか。
 結果と原因が逆転している。
「アニキ!」
「あ、マリィ」
 この花はと驚くマリィに、吐きましてとネズは曖昧に濁した。
「あんまり吐くもんじゃなか。ねえ、アニキ。無理はしないで」
「無理はしてませんよ」
「でも、顔色も悪いと」
「まあ、考えたことがありまして」
 例えば、と。
「花を吐くから好きなのか、好きだから花を吐くのか。どちらが正道でしょう」
「そんなの、どっちも同じったい」
「いえいえ、そんなことはないよ、マリィ」
「アニキが命を削っとるんは変わらん!」
 ああそうか。マリィはネズの身が心配なのだ。肉親故だろう。ネズはくすぐったかった。
「ええ、そうですね。マリィはいい子だ」
「話しをそらさんと、」
「ねえ、マリィ」
 おれはね。
「少しばかり憎いんですよ」
 自分を振り回す、あいつ(キバナ)のことが、憎いのだ。
「好きばかりが恋ではありませんから」
 何でもない。つまるところは、ネズの得意分野だったのだ。


***


 ナックルシティに買い物に来た。ネズはスーパーで買い物を済ませると、さてとナックルジムに向かった。ジムトレーナーがぎょっとして、すぐにキバナを呼ぶ。キバナはどうやらジムの設備の点検をしていたらしい。
 彼は、ぱっと顔を華やがせて、ネズだと、駆けてくる。
 咽返る花の香。ネズはこほこほと、花を吐いた。ジムトレーナーの、リョウタがぎょっとした。
「ネズさん?!」
「こほ、ええと、リョウタさん。この花がわかりますか」
「白いゼラニウムですか?」
「ええ、そうですね」
 キバナが駆け寄ってくる。嬉しそうなキバナもまた、花を口からこぼした。
 白いアザレアだった。
「おれはね、キバナ」
「え?」
「花吐き病なんて大嫌いです」
 ぽかん。思わぬ言葉、青天の霹靂に、キバナは固まった。ネズは白いゼラニウムを押し付けるように渡す。
「おまえも花吐き病だったのなら、話は早い」
 これこそが己が気持ちだ。
「おれはキバナが好きです。だけど、両思いになんてなるつもりはない」
 深い深い哀を、語る。
「おれはおまえを信じない」
 キバナはごほっと花を吐いた。
 白いチューリップだった。
「花は雄弁ですね」
 ではそういうことで。ネズはその場から立ち去った。キバナは引き止めることができなかった。



***


 どこで間違えたんだろう。
 ただ、好きだったのに。
 両思いになりたかったのに。
 この恋が結ばれたかっただけなのに。
「純白のユリはネズのためだけなのに」
 どうして、こんなことに。


***
***


今回採用した花言葉
黄色いヒヤシンス…あなたとなら幸せ
白いゼラニウム…あなたの愛を信じない
白いアザレア…あなたに愛されて幸せ
白いチューリップ…失われた愛

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