花の盛りに生きた人3/花吐き乙女パロkbnz/つづく、と思われる
※ジムチャレンジャー時代捏造
※家族設定捏造


 ネズは無事花を吐く事なく、本日の予定をクリアした。
「にしても、キバナに恋するとは」
 我ながら前途多難。無謀にも程がある。あの人気者のキバナを手中に収めるなど、無理だろう。それに、ネズとてキバナのものになりたいとは思わない。そもそも、拘束をしたくないのだ。自分が、拘束されたくないから。
 自分がされて嫌なことを、好きな人にしちゃいけません。甘やかなおまじないを信じたのみだ。ネズはそもそも恋をしたことがなかった。経験値というものが無いのだ。それもこれも、ジムにバトルにマリィの未来にと、駆けずり回った結果だ。それをネズは嫌とは思わないし、後悔なんてしたくない。
 だから、花を吐いたのは、ネズにとっては忌まわしい限りだった。

「アニキ、好いとお人は誰と?」
「あのね、マリィ。その話はまた今度で」
「最近そればっかりったい!」
 夕食の席にて、ネズが花を吐いてからというもの、夕食を毎回共に取り、健康状態をチェックするマリィには、心配なのだろう。心配性とまで言えるのでは。あのマリィが。ネズはそんなに不安がることはないのにと、素知らぬ顔でスープを飲んだ。
 あれから、花を吐いてない。キバナの情報を目に入れないようにし、考えないようにしているのだ。こうして操作できるうちに、恋心が消えたりしないだろうか。
 花吐き病は、叶わぬ恋に死ぬことがあるとセンセーショナルに伝えられるも、情報を掻き集めた結果として、"そもそも恋を失くせば花を吐かなくなる"とあった。
 花吐き病が完治するのは恋が実った時のみだが、それはそれとして実らなかったら死ぬなどと考えるのは、早計である。
「マリィには言えんと?」
「いや、そういうわけでは」
「頼りなか?」
「頼りにしてますが、恋なんて個人のものでしょう」
 マリィに背負わせませんよ。そうへらと笑えば、頑固者とマリィは頬を膨らませた。


***


 休日、ネズは嫌な顔をした。ナックルに買い出しに行かねばならなかったのだ。仕方ない。身なりを整えて、ネズは家を出た。マリィはワイルドエリアに特訓に行っている。夕飯には帰るらしい。

 ナックルシティを歩くと、種種雑多な人やポケモンがいる。それもこれもジムの集客力の結果だと言われたなあと、ネズは頭の片隅で考える。気分が悪いが、目の前の幸せそうな人たちは関係ない。ネズはそそくさとスーパーに入った。

 スパイクでは手に入りにくい食材をカゴに入れていると、よっと声を掛けられた。は、と思うと、キバナが立っていた。喉の奥から花の香りがした気がしたが、吐き気はない。
「ネズが来てるって噂を聞いてさ、何々、買い物?」
「スーパーなんだから当たり前でしょう」
「カゴ持つから一緒に買い物しよ。宅飲みとかどう?」
「結構です」
 ちぇとキバナは口を尖らせる。ネズはでかい子どもだ事と、取り合わない。花の香りは無視した。

 買い物を済ませると、スパイクタウンまで連れてってと駄々をこねるキバナを落ち着かせて、アーマーガアタクシーにスパイクタウン近くまでと頼んだ。
「なあネズ!」
 飛び立つ瞬間、キバナがぐいとネズの肩を引っ掴む。え、と思う間に、唇が触れ合った。
 咽せ返るような花の香がした。
「今日はありがとな!」
 何が、ありがとうだ。

 飛び立ったアーマーガアタクシーの中、けほと花を吐いた。数本の、ヒマワリだった。


***


 げほ、ごほ、ナックルの外れ、アーマーガアタクシーの停留所から少し離れた場所。キバナは花を吐く。赤いサザンカ、赤いキク、モモの花。すっかり吐ききってから、キバナはああと顔を上げた。
「やっぱり、好きだなあ」
 キバナは幼少期からずっと、花吐き病だ。

 感染源は母親だった。母の吐いた真っ白なバラを触って、感染した。
「母さん、母さんには父さんがいるのに、どうして花を吐くの?」
 無邪気に問えば、母は苦しそうに、密やかに教えてくれた。
「母さんたちはお見合い婚なの。政略結婚というやつね。だから、父さんと母さんは愛情なんてなかった。でも、貴方を産んで、一緒に家族になろうと言ってくれた父さんに、恋をしたの」
「んん? 結婚してるのに?」
「そう、結婚してるのに」
 おかしな話よね。母は笑んだ。でも、何よりも、キバナが花吐き病になったことに心を痛めていた。
「迂闊だったわ。花の管理はきちんとしないと」
「父さんに言わないの?」
「言えないわ。父さんは家族になると決めてくれたから」
 それだけでいいの。母はそう言った。

 しかし、程なくして、母は倒れた。病床にて、母の花吐き病を知った父は真っ青になって驚いていた。そして、医者が落ち着けと止める間もなく、母の手を取り、言ったのだ。
「僕は貴女をどうしようもなく愛している。頼む、死なないでくれ。貴女がいない世界なんて、考えられないんだ」
 愛してる。
 そう告げられた母は咳き込んだ。父が慌てるが、医者は笑った。母は純白のユリを吐いたのだ。
「これで花吐き病は治りましたね」
 キバナはそれらを見つめて、なんて素晴らしい病だろうと無邪気に喜んだ。

 母は、父に息子が花吐き病だと話した。父は、ただ、そうかと受け止めていた。どんな末路に至ろうとも、両親はキバナの味方だと約束してくれた。


***


 キバナが花を吐いたのは、スクール生を卒業する頃だった。ジムチャレンジに来た少年に恋をした。すぐに吐いたのは真っ白なバラの花。すぐに、彼に渡さねばと追いかけた。
 瑞々しい白いバラ。あなたの為の、白いバラ。
 オレこそがあなたにふさわしいのだと言いたかった。



 
***
***
今回採用した花言葉
ヒマワリ…愛慕
赤いサザンカ…あなたがもっとも美しい
赤いキク…あなたを愛してます
モモ…あなたのとりこ
白いバラ…私はあなたにふさわしい

- ナノ -