そんな貴方だって愛してる/pixiv700フォロワーお礼リクエスト企画『キバネズでネズさんが風邪をひく話』になります。いももも様、リクエストありがとうございました!


 原因は何だったか。突然の雨に降られて、ポケモンたちの世話を優先して。自身は風呂をシャワーで済ませ、ろくに食べずに、寝たからだろうか。
 そう、ネズは朝から熱を出していた。いわゆる、風邪だろう。

 おろおろとするタチフサグマたちに、おまえたちにもしも移ったらいけませんからと理由を説明してから、モンスターボールに戻す。
 食欲がないが、食べて市販薬を飲んでまた寝なければ治るものも治らない。寝間着も替えなければ。回らない頭でネズは冷蔵庫を覗き込んだ。目についたゼリー飲料を引っ掴むと、おぼつかない手で封を開き、ずっと飲んだ。爽やかなグレープフルーツの匂いがした。

 とりあえず今日は休みの予定だった。ネズはカレンダーを確認し、気が抜けて風邪になったのだろうと判断した。ここのところ、ライブとツアーが詰まっていて、休みを取れなかったのだ。せっかくの休みをベッドの中で終わらせるのは癪だなと眉を寄せる。
 そこでスマホが震えた。なんだと見れば、恋人のキバナから、メッセージが届いていた。
 何気なく開き、見る。するとそこには、ネズの家に向かってるとの文字があった。何故だ。ネズが不審がる中、チャイム音がした。

 玄関先まで行くと、やっほーとキバナが食料品を手に立っていた。どうやら合鍵を使ったらしい。
 ネズはたどたどしく告げる。
「何で、また、急に」
「昨日、雨の中走ってただろ? 偶然見かけてさ、風邪ひいてないかなーって」
「ひいてますね」
「やっぱり。オレさま看病にしきたんだ」
「はあ。まあ、助かりますけど」
「だろぉ」
 とりあえず上がるなと入ってきた大男の買い物袋には、食料品以外も入っているらしかった。

 清潔なキッチンとゴミ箱を見た大男は、長いため息を吐いた。
「ゼリー飲料は食事にならないって」
「すみません」
「お粥作るから、寝てろよ」
「着替えます」
「おーおー、そうしといて」
 ふんふんと粥を作り始めたキバナに、手慣れてるなと思いながらネズは着替えた。
「熱以外は?」
「咳が少し」
「後で熱測って。まあ、そんだけ動けるなら市販薬で治せる程度かな。一応薬買ってきたぜ」
「助かります」
 ソファにいてと言われて、ネズはちょんとソファに座った。

 直に出来上がり、ほどほどに冷まされた粥を渡されて、ネズはもぐもぐと食べる。粥はオートミールだ。キバナはジャムをトッピングに食べていた。
「薬は二錠な」
「はいはい」
 ネズはちまちまと、薬を二錠だけ取り出すと、キバナが差し出した常温の水で飲んだ。

 そのまま寝てろよと、キバナに寝室に追いやられる。そして、家事ならやっておくとまで言われて、ネズは流石に申し訳ないなと眉を下げた。それを見たキバナはくつくつ笑う。
「風邪なら寝てるのが仕事だろ?」
「そうでしょうけど」
「いいから寝てろって」
 夕飯には起こすから、そう言われてベッドに横たわる。ふわりと布団をかけられて、キバナはいい子で寝てるようにと念押しして、ベッドルームから出て行った。

 寂しいな。そんなことを少しだけ思ったけど、家事が終わるまで待たねばならないとは、大人のネズには分かりきっていたのだった。

- ナノ -