悪魔語り/2020夏休み強化リクエスト企画『エクソシストのキバナ×吸血鬼or悪魔or淫魔のネズ』y様、リクエストありがとうございました!
!疑似近親恋愛を含みます!


 ざかざかと歩く。深く暗い森の中、キバナはふうと息を吐く。ひどく明るい月夜、廃教会に入ると、おやおやと声をかけられた。
「おまえ、また来たんですか」
 月に照らされて、人ならざる男はふわりと笑う。キバナはおうと、応えた。
「教会はどうですか」
「相変わらずだな」
「ふふ、そうですか。いじめられたりはしませんか?」
「別に。皆、オレさまの出身なんて気にしないから」
「嘘。皆、おまえを都会の出身と信じ込んでるんでしょう」
「その通り。兄さんはいつもそうだ。本当のことばかり言う」
「おれは、おまえの兄ではありませんよ。おれには可愛い妹が一人、いますからね。おまえは、そうですねえ、たまたま拾った人の子です」
「またそう言う」
 オマエはいつもそうだ。キバナはくつくつと笑った。
「だれも彼も、オレが悪魔に育てられたなんて知らないんだ。興味も無い」
「おまえは優秀らしいですからね」
 噂は聞きますよ。悪魔は笑う。
「悪魔、悪霊にすら慈悲を与える、聖人。そして、人を改宗させるプロだと」
「慈悲も何もないけどな」
「ええ、おまえは話しているだけ。ただ、適切な住処を与えるだけ」
 おれにも随分と同居人が増えました。

 月の影から覗く目が幾つも、ギョロリ。どれもが、キバナに害など与えない。

 悪魔とは、契約に煩いのだ。それを利用し、キバナを攻撃しないように立ち回ってるに過ぎない。
「ネズは教会を崩壊させたくはないのか」
「まさか。おまえを受け入れる共同体を壊すなどしませんよ」
 クスクス。ネズは笑う。ゆらりと悪魔のしっぽが揺れた。コウモリのような翼が、ばさりと広がり、閉じる。
「それで、今晩のご用事は何ですか?」
「うん。実はさ、オレを疑うやつが現れたんだ」
「へえ、初めてですね。見る目がある」
「ネズの方から襲ってほしい。それを退散させれば、疑いは晴れるだろ?」
 まだ、教会にはいなくちゃいけないんだ。キバナは笑う。
「オレを捨てた両親を探さないと」
「探し出してどうするんです?」
「ネズに喰ってもらうんだ。そうすれば、ネズこそがオレのほんとうの親になる」
「そうですかねえ」
「あとは、腹いせだ。悪魔に育てられるって結構大変だったんだぞってさ」
「はは、そうですか」
 愉快そうなネズはいいでしょうと頷いた。
「疑いを持つ人間を襲ってあげましょう。死なない程度に、ね」
「助かるぜ」
 聖人君子のエクソシスト様。ネズは笑ってしまう。キバナの本心も知らないくせに、と笑う。

「愛してますよ、キバナ」
「オレも愛してるぜ、ネズ」

 誰にも祝福されない関係だとしても、ネズにもキバナにも、関係ないのだ、と。

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