花の盛りに生きた人2/花吐き乙女パロkbnz/つづくはず
※ジムチャレンジャー時代捏造
※家族設定捏造(今後出てきます)


 懐かしい夢を見た。


***


 ジムチャレンジャー時代だった。ジム戦を終えて、負けた。まだ戦えるとジグザグマが呻ったが、レベル差があまりにもあったのだ。大人しく草むらで修行しよう。ネズはよしよしとジグザグマを撫でた。

 ふと、こちらを見上げる目があった。不意に見れば、彼は花を持っていた。褐色肌に、まんまるな目。黒い髪を一つに束ねていた。
「あ、あのっ」
「はい?」
「さっきの、ジム戦、凄かったな!」
 キラキラと輝く彼に、負けましたけどねとネズは苦笑する。ふと、彼の持つ花を見つめた。真っ白なバラが一本だった。
「それ、どうしたんです?」
「あげようと、思って」
 綺麗だから。そう彼は笑った。ネズはそうですかと、差し出されるままに受け取る。ふわり、バラの匂いに、記憶が植え付けられた気がした。
 匂いは記憶と結びつきやすい。彼はなかなか策士だな、なんてネズは思った。
「ポケモンセンターまで案内しようか?」
「いえ、大丈夫ですよ」
 そう、と彼は引き下がる。ネズはへらと笑って、彼の頭をポンポンと撫でた。
「いつかまた、会いましょう」
「いいの?!」
「ええ、もちろん」
 じゃあ、約束だよ。少年は嬉しそうに頬を染めた。


***


「いやあれがゲロ花だったのでは」
 ネズはマリィに朝食をつくったあと、ソファに沈んでいた際に気がついた。あんな子どもに移されるとは。そもそも触っていたあの子こそ花吐き病だったということだ。
 なんて恐ろしいこと。ネズはきゅっと手を握りしめた。今、あの子は生きているだろうか。叶わぬ恋で、身を焦がし、窒息死していないだろうか。
 ネズは子どもが好きだ。あの子が健やかであることを、真に願った。

 そうこうしていると、作業をしようと決めていた時間となった。すっかり立派になったタチフサグマたちに声をかけて、作業部屋に籠もる。
 今日の作曲作業は進むだろうか。花を吐かなければこっちのものだ。ネズは淡々と作業に入った。


***


 こほっ、ごほ、ごほごほごほ。
「うえっ」
 花を吐く。ブーゲンビリア、クレオメ、イベリス、最後に彩り豊かなポピーの群れ。
 常用している吐き気を軽くする薬を飲み、床に散らばった花を寄せ集める。我ながら、美しい花だと思う。きっと、想ったあの人が美しいからだろう。
「好きだなあ」
 ずっと、好きだ。そう、キバナは花を抱きしめた。花の香りが混じり合って、どんな香水より瑞々しい匂いがした。


・・・
・・・

今回採用した花言葉

白いバラ…私はあなたにふさわしい
ブーゲンビリア…あなたしか見えない
クレオメ…あなたの容姿に酔う
イベリス…初恋の思い出
ポピー…いたわり

- ナノ -