キバ(→←)ネズ/正反対と真反対/無自覚両片思いです


 きっと世界が今より優しくても、ネズは優しくはなれなかった。
「ネズさんは優しいよ」
 ホップは言う。嘘つきとは思わない。子どもを守るのは大人の役目だ。それを譲る気はなかった。だから、子どもに優しくするのは当然だった。
「ネズさんも、自分に優しくなってくれよな」
 ホップは笑っている。寂しそうに、悲しそうに。ああ、そんな顔をさせてしまった。ネズはただ、不甲斐なかった。

 トントンと歩く。やあと声をかける大男に、ネズはゲッと嫌な顔をしてから、顔を上げる。
「どうも」
「ネズがナックルに顔を出すの、珍しいな」
 何か用? 手伝おうか?
 そんな言葉に、必要ありませんと拒否する。つれないの。キバナはつまらなそうに言うのに、目は楽しそうに笑っていて、厄介なのはどっちだとネズはただ息を吐いた。
「荷物持ちをするならいいですよ」
「お、いいの? 何買うんだ?」
「ミルクと野菜です。かさばるんですよね」
「ミルクは純粋に重いじゃん」
「そうですよ」
 ネズは歩く。キバナは隣を当たり前のように歩く。こいつはたまにはめげたりしないのだろうか。ネズは、彼に対しての対応があまり良くないことを、自覚している。何せ、アンコールをしない主義の男にアンコールを要求するのだ。印象はあまり良くない。でも、悪いやつではないことは知っている。
 これでもナックルに君臨し、宝物庫を守る番人なのだ。引き際だって弁えている。それよりもバトルのことで頭が一杯になるのは、何とかならないものだろうか。
「あ、そろそろシューズ買おうと思ってた」
「買い物前に見に行きますか」
「え、いいの?」
「荷物持ちがいないと困るんですよ」
 やった。キバナは笑う。よく笑う男だ。ネズはふうと息を吐く。自分は笑顔が得意ではない。羨ましいな、とほんの少し思った。まあ、不得手でも何の問題もないが。
「ネズに選ぶの手伝ってもらお」
「何でですか。靴ぐらい自分で選びなさい。子どもか」
「いーや、ネズがいい」
 なんだそれ。靴ぐらいに、何を固着する。ネズは三度、息を吐いた。
「恋したてのティーンじゃないんだから、靴ぐらい自分で選びなさい」
 結局履くのは自分の意思なのだから。買ったまま、使われない靴を思うと、可哀想じゃないか。そんなようなことを言うと、あ、とキバナが目を見開いた。
「オレ、ネズが好きなのかも」
「……は?」
 何言ってるんだこいつ。ネズはぽかんとした。ちちち、凡庸な鳥ポケモンの声が遠くから聞こえた。

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