キバネズ前提ネズ+ゴヨウ/長い冬の国


 恐るることなかれ、天は我らを見ておられる。

 シンオウ神話に触れた。ただそれだけだ。ネズはううむと眉をひそめた。
「どうでしたか?」
 ゴヨウが淹れた紅茶は、紅茶にうるさいガラルの民であるネズにも納得できるものだった。ガラルよりもミルクの濃度が低いので、ミルクティーはやめておいたほうがいいですよという警告もありがたかった。
「さっぱり分かりません」
「そうでしょうね」
 ゴヨウは気を悪くすることなく、英雄と王の国ならば当たり前だと肯定した。
「ただ、こちらでは当たり前のように唯一神アルセウスの信仰がある、というだけですよ」
「折角資料を揃えてもらったのにすみません」
「いえ、私も改めて調べられて良かったです」
 実はそう信心深いわけではないんです。ゴヨウはくすくすと笑った。ネズはそうなのかと意外だった。
「こちらのチャンピオンは考古学者でしたでしょう」
「ええ、そのお手伝いをすることはありますね。でも、私が主に手伝うのはリーグの予定です」
「ははあ、そうですか……うーん、きっと分かりやすくまとまってることは分かるので、研究職も向いてるのでは?」
「リーグをよくすっぽかすチャンピオンの代理職の方が落ち着きませんので」
「ここのチャンピオンはフィールドワークが得意なんでしたっけ……あとリーグは通年、と」
「ええ。今日は皆に頼んで抜けてきました」
「何から何まですみません。ちょっとした興味だったのに」
「そのちょっとした興味が重要ですから」
 ゴヨウはにこにこと笑っていた。


『シンオウにいるの?!』
「ええまあ」
『なんで?! オレ知らなかった!』
「日帰りなんで。そろそろ空港です。ああ、お土産ならシンオウ神話の資料と風景写真程度です」
『お土産は気にしないから、その、無事帰ってきてくれよ』
「当たり前です」
 ゴヨウが運転する車。通話を切ると、仲良しですねと微笑まれた。まあそうですね。ネズは拒むことなく、平然と言った。
「恋人です」
「おや、そうでしたか」
「……驚きが薄いですねえ」
「とても優しい声でしたので、ご家族もしくは恋人かと思ったので」
「そうでしたか」
 気恥ずかしさに外を眺めると雪がうず高く積もっている。そちらの冬も厳しいですか。そう言われたが、シンオウ程ではないですよとネズは答えた。
「雪の国程ではありません……ああ、そうかな」
「どうかされましたか」
「いえ、自然が厳しいからこそ、シンオウ神話が語り継がれてきたのかなと」
「それも充分にありえますよ」
 ゴヨウは穏やかに答える。
「魂の拠り所なんです」
「そういうものですか」
「そういうものです」
 いつか、またシンオウに来てください。ゴヨウは笑っていた。
「チャンピオンが次こそは会いたいと言っていたので」
「ただのロックミュージシャンに?」
「新たな伝説を見届けた者として、です」
「身に余ります」
「そうでもないですよ」
 貴方の精神性は、こちらのチャンピオン好みですから、と。

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