キバ→←ネズ/わからないものばかり/上のキバナ視点的なつづき/愛は痛みなネズさんと、愛は温もりなキバナさんの、くっつきそうでくっつかないはなし/両片思い
!捏造しかない!
先代のナックルジムリーダーを捏造しています。


 ネズはいつも一人でいる。

 マリィを心配している割に、マリィの自立心を尊重して、なるべく離れようとしているようにも見える。
 キバナにとって、愛とは温もりである。与えられた母の愛と、父の背中を、キバナはよく覚えている。ナックルで育ち、ジュラルドンと共に名門ジムの門を叩いたキバナは、それはもう大切に育てられたと思う。だが、キバナは大切にされるだけの子どもではなかった。ジムでの勉強に煮詰まると、すぐにワイルドエリアに飛び出した。ジュラルドンと実践を積み、幾多ものポケモンやトレーナーと出会った。
 ワイルドエリアが整備される前なら、お前を引き止めていただろうよ。先代のナックルシティのジムリーダーは言っていた。
 どうして。そう問いかけると、そりゃあそうだと言われた。
「行ったまま、帰らない子がごまんといた」
 だから、誰もが、行かせたがらなかった。だが、子どもにとっては大人への通過点だった。
 歯痒かった。先代は最後まで教えたくれた。
「隣町の、スパイクタウンの子どもがワイルドエリアで行方不明になった時は、必死で探し回ったさ」
 それでも見つからなかった。キバナはその悲痛さを知って、先代の温もりを浴びて育った。

 ネズは、きっとその子を知っているんじゃないか。キバナは何となく勘付いていた。小さくて、若くして才能豊かな子だった。先代は数年前に他界する間際まで教えてくれた。
 もしも、その子の関係者と会えたときは、墓前で私を罵っておくれと。
 先代の深い後悔を、キバナは手の温もりと共に知った。

「ネズ、ここにいたのか」
 声をかける。スパイクタウンの裏路地。日の光がトタン屋根の隙間から射し込むそこで、ネズはメモ帳とギターを片手になにやら書いていた。歌詞だろう。キバナは距離を保ちながら、続ける。
「昼ご飯、食べたか?」
 ネズは眩しいものを見るように、妬ましいものを見るように、憐れむように、キバナを見上げている。
 だから、キバナは手を差し伸べるように、告げた。
「一緒に食べようぜ」
 ほら、おいでよ。そう笑えば、ネズは、静かに口を開いた。

「どうして、おれに構うんです」
 再戦ならお断り。ネズはNOを叩きつける。キバナはやや驚いた。それだけで声をかけると思っていたのか。憤慨とはいかないが、甘く見られたものだと笑いがこみ上げてきた。ニッと歯を見せていた。
「ネズだから」
 オマエだから、また会いたいと思うよ。そう伝えると、ネズは、チョーカーを弄った。

 ネズは立ち上がり、昼飯ならおれが店を教えますよと言う。そりゃ助かると、キバナはひょこひょことついて行った。
「ネズはさ」
「はあ」
「オレのこと、嫌い?」
「そういうところはキライです」
「そっか」
 そりゃあ困った。キバナはハハと声を上げていた。

 墓前はまだ遠い。

- ナノ -