キバ→←ネズ/しらないものばかり/愛は痛みなネズさんと、愛は温もりなキバナさんの、くっつきそうでくっつかないはなし/両片思い
!捏造!
ネズさんの古い友人を捏造しています。


 愛とは痛みだ。ネズはそう信じている。

 ネズの愛にはいつも痛みがまとわりついている。薄ぼけたスパイクタウンの、薄暗がりの、ステージから離れた場所で、ネズは裏通りの路地裏でギターを握る。
 音を確かめながら、歌詞を練る。ああでもない、こうでもないと、メモ帳が埋まっていく。字を書くスペースが足りなくなると、新しいページを捲る。この瞬間、今までの歌詞は過去のものとなる。それが、ネズに痛みをもたらす。帰ってこない子どもたちを見るかのような、愛憐。

 ワイルドエリアに出かけて、帰らない子などごまんといた。ローズ委員長がタクシーの空路を作っていなかった頃。ワイルドエリアは子どもが大人になるための試練の場所でもあった。
 ネズはその、整備されていないワイルドエリアの最後の代だ。自分より若い子どもたちは、ワイルドエリアのそこかしらにいるマクロコスモスの職員に見守られて、旅をしていることだろう。
 いいな、とは思わない。でも、何故もっと早く整備してくれなかったのだとは、思う。ネズの友も、帰らなかった子だった。

 痛みは積み上がっていく。愛していたほどに、仲の良い子だった。その子はネズより若くして、早くにワイルドエリアに挑戦し、帰らなかった。霞む顔と、思い出せない声音。ただ、優しい子だったと思う。
「ネズ、ここにいたのか」
 キバナが歩いてくる。こんな裏路地に入るだなんて、ネズは目を丸くした。ここまで入られるとは思わなかった。不覚にも、予想外だ。ネズはメモ帳を閉じた。

 キバナは若くして友を弔うことなど無かったのではないだろうか。ネズは勝手に思っている。彼はきっと、痛みとは遠いのだ。だから、ネズの哀愁には合わない。仮想のキバナという像に対して、そう信じている。
 でも、現実のキバナは違う。オマエの歌、いいな。そう言っていたこともある。それがリップサービスなら何とでも返せた。本気だから、困るのだ。
「昼ご飯食べたか?」
 オレさま、これからなんだけど。彼はにこりと笑う。よく笑う男だ。ピアスがきらりと、裏路地に微かに届く太陽光を反射した。
「一緒に食べようぜ」

 だから、ネズは聞かねばならん。

「どうして、おれに構うんです」
 再戦ならお断り。それだけなのに、キバナはネズを追いかける。または、うまく立ち回って、ネズの行く先に立っている。
 キバナはきょとんとしていた。しかし、すぐにニッと歯を見せて笑う。
「ネズだから」
 オマエだから、また会いたいと思うよ。そんな言葉に、ネズは相容れないなとチョーカーを弄った。

 痛みこそが愛であるとして。きっと、キバナは違うのだ。ネズは今日もまた、曖昧な関係に名前を付けられずにいる。

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