キバネズ/目が覚めるような恋をしている/捏造しかない/これは二次創作です


!たぶん剣盾のネタバレ含みます!
!どこからがネタバレかわからないですがこれはクリア後クリア後の人間が書いてます!


 要らないものを捨てる勇気がありませんでした。
 ネズはついと真新しい譜面紙を取り出した。それを眺めて、その虚ろな目に、マリィはこれは重症やけん何とかせんととぼやいた。

 キッカケは何だったのか。ある日を境に、ネズは無気力になった。何かを置き去りにしてきたかのようで、ライブもしばらく休止となっている。
 ただし、ライブについては元々外の地方での巡回が落ち着いたら新曲のために一時的にライブ活動を休止すると前々から言っていたので大事にはなっていない。
 そう、新曲だ。新曲を考え始めた辺りから、ネズはどこかおかしくなった。

 マリィはうんと考えた結果、しゃあなしと自身のスマホロトムをぴこぴこと操作し始めた。相談事なら、自身よりもあの人のほうが向いとるけん。マリィは確信していた。

「こんにちはー」
「あ、キバナさんもう来たと?」
 連絡してすぐ、キバナがネズとマリィの自宅にやって来た。これ土産なと紙パックのエネココアを渡されて、土産も何もとマリィは微笑んだ。
「そんで、あの兄貴が変なんだって?」
「そう。ずーっと無気力な感じで、話しかけてもマトモに返事してくれんと」
「マリィでそれってかなり重症だな」
 オレさまに何とかできんのかとキバナが首を傾げると、マリィは信じとるけんと言ってキッチンに向かった。

 キバナはネズの部屋の前に立つ。コンコンとノックすれば、どうぞと声がした。誰とも聞かずにその返事は如何なものかと思いながら、キバナはネズの部屋に入った。
「ネズ、オレさまだぜー」
「ん。ああ、キバナですか」
 久しぶりですねえと、ネズは見慣れぬタートルネックに細身のジーンズ姿で、真っ白な譜面紙を見つめたまま言った。派手な見た目の割に礼儀正しいこの男にとって、あるまじき姿である。本当に重症だなとキバナは項をがりがりと掻いた。
「新曲が浮かばないんだって?」
「そうですよ。邪魔しないでください」
「邪魔しないけどよ、気分転換ぐらいはしたらどうだ?」
「結構です」
「ちなみにさっき妹ちゃんにエネココア渡しといたから」
「マリィなら喜ぶでしょうねえ」
 全くこちらを見ないネズに、キバナは段々と腹がぐるぐると空いてきた。苛立ちではない。ただ、腹が減った。
「ネズ、こっち見ろって」
「邪魔しないでくだせえ」
「じゃあオレさまがそっちに行くから」
「は」
 数歩であっという間にネズの背中を抱きしめて、項に唇を寄せる。じゅ、と吸えば、肘で腹をどつかれた。
「いって!」
「何しやがるんですか!!」
「タートルネック着てんだから見えねーし、いいじゃん」
「そういうこっちゃねーんですよ!」
 この万年発情期と叫ばれて、落ち着けってとキバナはネズを抱きしめ続けた。
「オレさま、ネズが淹れてくれたミルクティーが飲みてーなあ」
「離れたら作ってやらないこともないですよ」
「よし、決まりだな!」
 ついでにバトルもしてくれよと言えば、調子に乗るなってんですよと睨まれた。無事、普段通りのネズに戻ったと見えて、良かったとキバナはひっそりと息を吐いたのだった。

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