落花・機蜜/キバネズ学パロ/ただしポケモンはいる


 学期末テストを終えると当然長期休暇があるわけだが、部活ガチ勢にそんな休みはない。
「甲子園まで残り一週間! 追い込みだ!!」
「ダンデくん。キバナくんしか来てないよ」
「ネズはパスだってー」
「くっヤローなら園芸部か?!」
「畜産部で子ヤギが生まれそうなんだって」
「ルリナは?!」
「夏の間はトレーニングとして水泳部に入るって」
「当日は揃ってくれればいいか!!」
「わー、ダンデくん諦めるのはやーい」
 それにしてもと、キバナは資料と向き合う。歴史部はエンジョイ勢しかいないため、長期休暇はそのまま休みである。資料をバトル部のクーラーの効いた部屋に持ち込んで、せっせと論文と論拠を読み込んでいた。
「過去の戦闘データも結構役立ちそう」
「む、そうか」
「データから集めるのいいね! ダンデくんはちょっとワンパチと遊んでてね」
「ソニアのワンパチはやんちゃだな、あ、どこへ行くんだワンパチー!」
「外、暑いのに元気だねえ」
「ねーちゃん、ダンデを外に出していいの?」
「リザードンとワンパチがいるから大丈夫でしょ」
 それよりもデータを見せて。ソニアはそうにっこりと笑った。実質のところ、ダンデは戦力外との通告だが、いいのだろうか。キバナは不思議だった。


・・・


 温室は常に一定の温度と湿度を保っている。よって、夏だと丁度良く感じるほどだ。
「ネズー! 勉強教えて!」
「人選ミスですよ」
「あくタイプの天才なんだろ」
「はいはい」
 問題集を手に立ち寄れば、ネズは温室のどこからか机と椅子を引っ張り出してきて、キバナを椅子に座らせて机に向かわせた。
「ポケモンバトルの基本はタイプ相性です。それはよく知ってますね?」
「オレさまドラゴンタイプ使いだもん」
「ええ、とびきり豪快なタイプですね。その点、あくタイプは実にピーキーです」
 ネズは図をノートに書いていく。その字は機械のように精密だった。図案でも書いたことがあるのだろうか。キバナはほうと見惚れた。
「このように、エスパーにはやけに強いですが、むし、フェアリー、かくとうに効果抜群をとられます。この際注意すべきはフェアリーでしょう」
「なんで?」
「フェアリーは多様な技を組むトレーナーが多いんです。例えば、ピクシーやモンメンなど」
「後年、フェアリータイプが発見された際に追加されたグループ?」
「よくご存知で」
 ではもう問題集は解けますね。その声に、キバナはこくんと頷いた。

 問題集を解き終えると、持ってきた水筒から水を飲む。ネズもまた、持ち込んだらしい主張の強いピンク色の水筒から何かを飲んでいた。
「何それ?」
「麦茶です」
「においがする」
「鼻がいいですね」
 くんと鼻をひくつかせると、ネズはすぐに降参ですと息を吐いた。
「アイスティーです」
「えっ、熱中症になるって!」
「気にしないでください」
「気にする! ほら、水分けるから」
「結構です」
「頑固もの!」
「ノイジーですね」
 むうと頬を膨らませたキバナに、ネズはくつくつ笑っていた。
「問題集は終わりましたか」
「うん。粗方は図書館で済ませたもん」
「じゃあ、購買に行きません? アイス奢りますよ」
「え、悪いって」
「こんな時ぐらい先輩風を吹かせてください」
「ネズはまだ先輩じゃないもん!」
「はいはい」
 中等部と小学部には大きな隔たりがある。それこそがルリナの言っていた中等部への入学試験だ。そこで大勢の子どもたちがふるいにかけられる。バトル部の6年生勢は皆が中等部への進学希望だ。勿論、キバナだってそうである。ネズはそんなふるいにかけられ、耐えたトレーナーなのだ。

 まだ、入学してないから先輩じゃないもん。未だ駄々をこねるキバナに、はいはいとネズはギターケースを背負って歩き出した。
「待ってってば!」
「いいから行きますよ」
 二人でぱきんと割るやつとかどうですかね。そう笑うネズは楽しそうで、キバナはとても嬉しくなったのだった。

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