落花・多弁3/キバネズ学パロ/ただしポケモンはいる/いったんおしまい!


 キバナはいつものように温室を訪れた。しかし、ジュラルドンがキバナを止める。やけに息を潜めるジュラルドンに、これは何かあるぞとキバナは慎重に進んだ。ポケモンの、特に相棒の勘なのだ。間違いない。

 温室の広場では、ネズと、ローズ理事長が向き合っていた。ローズ理事長は機嫌良さそうに告げる。
「きみの才能は素晴らしいものだよ」
「……」
「ここの守護者にきみを選んでよかった」
「……」
「お陰でエネルギープラントは順調だ。何もかもが順調にことを進めらている。きみには何か報奨が必要だね」
「何も」
「そうかい? もう少し欲張りでもいいだろうに、きみはいつだって何も言わないね」
「貴方がお喋りなので、丁度いいでしょう」
「それもそうだ」
 それじゃあね。ローズ理事長が温室から出ていく。キバナはジュラルドンをボールにしまい、草かげに身を潜めた。お陰でローズ理事長はキバナに気がつくことなく、温室を出て行った。

 充分な時間が経ってから、草かげからがさりと出て行くと、その場に立ち尽くしていたネズが、やはり居ましたかと顔を上げた。その顔色は悪い。キバナはすぐに駆け寄って、そっと背伸びをして彼の頬に手を寄せた。ネズも少し屈んでくれた。ひやり、冷感にキバナは口を開く。
「冷たい」
「少し、緊張したもので」
「ネズが?」
「あの人は苦手なんです」
「殺したいぐらい?」
「……え?」
 キバナは真剣な目で、問いかけた。
「ネズは、殺したいぐらい、あの人が嫌い?」
 ぽかん。ネズは唖然とする。キバナはするすると語る。
「ネズのいちばんがあの人でも、オレはね、ネズ」
「いちばん、なんかじゃ」
「あのね、ネズ。オレはね、ネズがすきだよ」
 いちばんじゃなくてもいいよ。キバナはうっすらと涙を浮かべていた。
 何のことはない。心の涙が、表面化しただけのことだ。
「ネズが殺したいのなら、オレさまが殺してあげる。だいすきだから、世界を敵に回しても、オレさまはネズの味方だよ」
 そうして、とうとう涙を溢したキバナに、ネズは戸惑いがちにハンカチを出して、小さな彼の涙を押さえた。
「そこまでの、決心をさせるとは、思いませんでした」
「うん」
 ここには、とネズは気まずそうに言う。
「ここには、スパイクタウンがなくて、マリィもいない。守るものが無いおれに、理事長はここを守ればいいと言った。傀儡に成り下がったようなものです。この、おれが」
「でも、それぐらい辛かったんだろ」
「……守るものがあると、人は強くなれます。守るものが無いと、人は無鉄砲になります」
 そういうものです。ネズは静かに語った。
「でも、おれにも目標が出来たんですよ」
「……へ?」
 きょとんと、キバナが目を丸くする。ネズは柔らかく笑っていた。
「おまえを、守りたいと思ったんです」
 本来の、エネルギープラントを守るのは、おまえだったのだから。ネズは成り代わったに他ならないのだから。引き受けたからには、キバナを守り抜くのだと。
「ねえ、キバナ」
 おれにもおまえを守らせてください。
「おれの心を守りたいと言ったおまえを、守らせて」
 そんなのと、キバナは涙声で告げた。
「オレさまがネズを守れるぐらい、早く強くなるから」
「じゃあ、それまでの間は、ということで」
「うんっ、うん、それでいいよ」
 だいすきだよ、ネズ。そう笑ったキバナは最後に一粒の涙を流した。ネズはそれをハンカチで拭って、もちろんと小さなキバナを細い体で抱きしめたのだった。

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