キバネズ/そのごのはなし/捏造しかない/これは二次創作です


!たぶん剣盾のネタバレ含みます!
!どこからがネタバレかわからないですがこれはクリア後クリア後の人間が書いてます!


 いとしいひとの声がした。
 ぱちり、目を開く。微睡むことなくすぐに起き上がって、キバナはうんと伸びをした。漂うミルクティーの香りに混じって、愛しい声がする。
 ネズが小さな声で歌っている。先日発表したばかりの新曲で、彼にしては珍しいバラードだ。心機一転、新しい曲に挑戦したかったんです。そのようなことを音楽雑誌のインタビューで語っていた。
「ネズ」
 そう呼べば、何ですかと振り返る。手には木べらがあり、ポトフを作る途中ですよと言われた。ミルクティーのにおいはどうやら机の上かららしく、彼のミルクティーであろうそれに手を伸ばして一口貰った。濃いそれは、他の地方ではなかなか手に入らない、新鮮で濃厚なモーモーミルクが味を左右しているらしい。
「後でスコーンを焼きますからまだ寝ててもいいですよ」
「いや、手伝う」
「おまえ、料理できるんですか?」
「スコーンならできるって」
 横で作らせてくれよと言えば、仕方ないですねとネズは了承してくれた。

 計量し、ざっくりと混ぜ合わせた生地をセルクルで型抜きして温めたオーブンで焼く。その間にクロテッドクリームとモモンのみジャムを用意した。ネズの方はもうあとは煮るだけだからと、鍋を弱火にして机に戻っていた。
「三時にマリィがチャンピオンを連れて帰ってくるので、皆で食べますか」
「お、そりゃいいな」
 そもそも、今日のトーナメント戦はどうだったのだろう。キバナがロトムに調べてもらうと、今日もチャンピオンが勝ち越したらしい。流石は最強を破ったトレーナーだ。
「キバナはバトルタワーの調整の方はどうなんですか?」
「んー、ちょっと厳しいな。一般トレーナーもレベル高くてさあ」
「好戦手はダンデだけではないってところですか」
「そーいうこと」
 そういえばと、キバナは口を開いた。
「ネズはバトルタワーに挑まねえの?」
「おれは行きませんよ」
 そもそも、自分の才能には見切りをつけていて、目標だったマリィへのジムリーダーの引き継ぎを済ませたのだ。後はミュージシャン活動に専念させてくだせえよとネズは淡々と言った。
「じゃあやっぱネズと戦うにはここに会いに来るしかねーな」
「トーナメント戦にたまに呼ばれますけどねえ」
「なかなかオレさまと当たんねえもんなあ」
 トーナメント戦の初戦はくじ引きで相手が決まる。なかなか思うようにキバナとネズが戦うことはなかった。そもそも、同じトーナメント戦に出ることも稀だ。
「マリィとチャンピオンが帰ってきたら審判頼んでバトルしようぜ」
 もちろん、ダイマックスは無しだ。キバナがそう言うと、ネズが構いませんよと珍しく答えた。
「ただし、お前のスコーンの出来次第です」
「なんだそりゃ!」
 美味しいスコーンを頼みますよ。ネズがそう笑むと、ちょうど良くスコーンが焼けて、玄関からマリィとチャンピオンの声が聞こえてきたのだった。

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