キバ→←ネズ/『レプリカ』4/孤独にまつわるキバネズのはなし/つづきたい……!
ナックルシティから降り、ワイルドエリアに入る。鏡といえば、思いつく場所があった。
きょじんのかがみいけ。単なる地名だとしても、それは確かに鏡池だ。
ネズはそっと鏡のような水面を覗き込む。始め、そこにうつるのはただのネズだった。
だが、何度か覗いて、逸して、また覗いてと執念深く繰り返すと、ぱくりと、水鏡のネズが口を開いた。
──オススメしませんよ。
それで折れるのなら、こんなところにまで来やしないだろう。ネズはそうぼやき、池に飛び込んだ。
水が波打つ。体は、精神と切り離された。
だらり、ネズの体が、池の外で倒れた。
水の中に入ったネズは、目を覚ます。暗い底と、明るい水面。絶え間なく泡沫が行き交い、生と死が繰り返される。
「ここは、生と死が複雑に混じり合う世界やけん」
死後の世界ではない。でも、生きている世界でもない。ここは狭間。鏡面の虚ろ。
ふらり、現れたのはマリィだった。しかし、ただのマリィではない。こんにちは。マリィはピンクのスカートを揺らして他人のように挨拶をする。
「マリィが案内人やけん、あなたは、アニキ?」
確認するような声に、ネズは迷うことなく頷いた。
「おれはマリィの兄です」
「そう……そのアニキは、そうやけん。でも、あなたは鏡の向こうからやって来たと」
「よく知ってますね」
「案内人やけん、わかると。で、アニキはアニキだって、思うの?」
「ええ、もちろん」
ネズはハッキリと口にした。
「偽物だろうと、本物だろうと、おれはおれです」
「ふぅん」
マリィは、でもね、と口にする。
「でもね、こっちの皆は、本物がいいって言うけん」
「マリィもそうですか」
「マリィは……」
そこで、マリィは口籠る。もごもごと口の中で音を転がしてから、口にした。
「マリィは、分からない。だから、案内人をやってると」
迷ってるから、迷い人を導くのだと。
「こっちに来る方法はいくつかあって、アニキは、大当たり。一番近道」
「それは上々ですね」
「うん。だから、キバナさんのところにもすぐ行けるけん」
ぽわ、とモルペコが光り、現れる。うらうら、そう鳴いて、走り出す。
ついて行って。マリィが声をかけた。
「モルペコから離れたら、帰れなくなるけん!」
「ありがとうございます、妹よ」
「……うん」
たたた、とネズは走った。
モルペコは止まらない。くるくると姿を変えながら、走り続ける。いくら走ったか分からない。だが、マリィが最短だと言った距離なだけあって、ネズが暗闇と泡に飽きる前に、目的の人物の前に辿り着いた。
「キバナ!」
そこに立つのは、左手の甲にガーゼを貼ったキバナだった。