キバ→←ネズ/『レプリカ』2/孤独にまつわるキバネズのはなし/つづきた~い


 見えないものを見ようとする。

 キバナと会った次の日。ネズはナックルの街角のショーウインドウを眺めていた。そこには繊細な装飾が施された鏡が売っていた。うつる影は、ネズだ。だが、それは本当にネズなのだろうか。
 仮令(たとい)、それが本物であろうと、無かろうと、ネズには変わりないのだけど。

──証明せよ、只人(ただびと)よ。

 鏡の中のネズが喋った。は、と息が漏れる。その場から動けなくなる。雑踏が遠ざかる。鏡の中のネズは皮肉たっぷりに、そしてどこか恍惚とした笑みを浮かべていた。

──証明せよ、只人よ。

 繰り返されるそれに、ネズは目を見開いたまま、ショーウインドウに手を伸ばした。冷たいガラスに拒まれて、指先から伝わる温度に、ハッと意識が逸れた。瞬間、鏡の中の自分は口を閉ざす。鏡の前のネズと同じように、目を開き、ぽかんと口を半開きにしていた。皮肉だろうか。否、確実に通信が途切れたのだ。ネズははっきりと自覚した。

 時間が無い。ネズはくるりとショーウインドウに背を向けた。

 ナックルシティから駆け出す。ぴしゃん、ぴしゃん。水滴のメロディが脳裏を駆け抜ける。

 みつけた。ネズは確かにみつけたのだ。

 ルートナイントンネルを抜けて、古臭いネズの家につく。立て付けの悪い戸を開き、リビングに辿り着くと、そこにはキバナが立っていた。
 そう、左手の甲に痛々しいガーゼを貼ったキバナが、へたりと眉を下げて笑っていた。
「見つかっちゃった」
 ヌメラが弱々しく泣いている。ポケモンたちは全員が目を伏せていた。誰も彼もが泣いている。

 一人の夜は泣きたくなるよ。そんなフレーズが、ネズの脳裏に、水滴のメロディと共に表れた。
 同時に、キバナはかき消えた。

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