キバ→ネズ前提ネズ+ソニア/当然/当たり前のこと/一度折れたあなたは美しい
!呼び名を捏造しています!
知らない人だったから、唯、知らないと答えたまでだ。
「え、ウソ」
「本当ですよ」
うっそだあ。ソニアは目を丸くしたまま、驚いていた。ネズは、そう難しい話ではないですよと、伝える。
「おれはキバナを知りません」
「引退バトルしたじゃない」
「一度きりでしょう」
「シーソー事件でも会話したんでしょ? ホップが言ってたもの」
「あんなのお世辞に過ぎません」
冷たい反応に、ソニアは困ったように眉を下げた。
「あれからさ、キバナくんったら、倒したいトレーナーにダンデくんだけじゃなくて、ネズさんの名前も出してるんだよ?」
「おや、奇特な人ですね」
「当の本人なのに!」
信じらんない。ソニアはハアと息を吐いた。ネズが差し入れた茶葉は、ソニア博士のお気に召したようだが、お茶の時間にふさわしい話題は提供できなかったようである。残念なことだよ。ネズはうっすらと笑った。ソニアはそれを見てぷうと膨れる。
「キバナくん、かわいそう」
「おや、貴女には言われたくねーですけど?」
「なんの事かなあ」
白を切るソニアに、ネズは真っ赤な紅茶を一口飲んで、告げた。
「ダンデのライバル」
「元、でしょ」
今はもう違うもの。ソニアは胸を張る。
「ダンデくんも知ってるはずよ。一番近くで、心が折れたところを見たんだから」
「お、案外強かですね」
「強かにもなるわよ。それで、話をそらさないでね」
キバナくんはきっと本気だよ。ソニアは言った。
「あの目、ダンデくんのあの日の目と似てたもん」
「それは……」
ソニアは大切な記憶の蓋を開けた。
天才ダンデのライバルには向かなかい。自分にバトルは向かない。チャンピオンになど、成れっこない。
だから、諦めた。その日の己を見るダンデを目を、ソニアは思い出していた。
「後悔してるの」
ほんの少しね。ソニアは笑った。
その晴れやかな顔に、ネズはほうと息を吐いた。完敗だ。そう思った。
「ねえ、ネズさん。少しでいいの」
ほんの少し、貴方の時間を、キバナくんにあげてほしいの。
「無理には言わない。でも、嫌じゃないのなら、もう一度、戦ってあげて」
「わざと負けるのは?」
「そんなこと、ネズさんはしないでしょ」
知ってるもん。ソニアはまた、花のように笑った。自分より幼く見えた少女は、立派な花となって、ネズの前に立っている。お互いに椅子に座っているというのに、ソニアを見上げたような心地がした。
太陽だ。ネズには眩しすぎた。なら、キバナにはどうだろう。きっと、彼にとっても、彼女は、いたく、美しいことだろう。
「一度、話してみます」
それだけなら約束できる。リアリストの言葉に、智慧持つソニアはいいことだと紅茶をティーカップに追加したのだった。
紅茶は赤く。ソニアはオレンジ色に染まり、ネズの薄氷の目が輝く。そろそろ夕陽が眩しくなる。帰ります。ネズは席を立ったのだった。