キバネズ/サイレント4/アローラ旅です/もうちょいつづきます


 コニコシティのホテルを早起きしたチェックアウトし、朝市を見て回る。初日に買ったペンダント以上のものは見当たらなかったが、異国情緒溢れる町並みは歩いていてとても面白かったと、キバナとネズは感心した。露天が並ぶコニコは、どうにもアローラのラテラルのように見えた。

 コニコシティから出ているウラウラ島への連絡船に乗る。メレメレ島からアーカラ島への連絡船より小さかったが、充分に大海原を駆け抜ける力のある船だった。
 勢いよく海原を走り、離れていくアーカラをやや名残惜しげにネズが眺めている。急いじゃったかな。そう問うと、いいえ、そうではありませんよと、返ってくる。
「楽しい時間はすぐ過ぎるものですね」
「そっか」
 その感想に、キバナは心がくすぐったかった。


・・・


 ウラウラ島のマリエシティに着く。パンフレットをスマホの中で広げたキバナは図書館に行きたいといい、ネズは庭園を見たいと譲らなかった。
「おまえのことですから、しばらく図書館にいるでしょう? それならおれは庭園でお茶でもしていますよ」
「うーん、別行動かあ。でも、図書館には絶対に長居するだろうし……ごめんな」
「構いませんよ」
 そうしてふたりは二手に分かれて、それぞれの目的地へと向かった。


・・・


 マリエ図書館。専門書と民俗学のコーナーに行くと、小さな女の子が紫色の髪を揺らしながら貴重そうな本を丁寧に捲っていた。
 しかし、司書にアセロラさんと呼ばれると、はあいと、彼女は本を片付けて図書館のロビーへと向かった。キバナは不思議な女の子だと思いながら、気になる本を数冊手にしたのだった。

 アローラの伝説。
 かくして月と太陽を食らった獣。かがやきさまは眠っている。そんなような話だった。
 やけに抽象的で、また解釈がいくらでも出来そうな文面だった。だが、それこそが伝説だろう。廃れ、錆びていく中で、伝説は変化していく。キバナはそれをよく分かっていた。

 読書はしばらく止められそうになかった。


・・・


 マリエ庭園には見慣れないポケモンが多くいたが、それよりも静かな空気に満ちていた。一番奥のお茶席に向かうと、ガラルからかいと声をかけられた。ふと見ると、指輪を薬指に嵌めた青年がひらひらと手を振った。
「きみはネズさんだろう」
「よくご存知で。あなたは?」
「ククイという。ポケモンの技の研究者さ」
 そして、同時に、リーグを立ち上げた本人でもある。その言葉に、なるほどとネズは納得した。他の地方のジムリーダーの動向を気にかけていてもおかしくはない。
「タチフサグマのブロッキングを見たことがある。完成度の高さに感服したさ」
「そう思えるのなら、あなたも強いのでは?」
「そんなことはないさ、リーグ設立のために行ったカントーで洗礼を浴びたよ」
「それはそれは……あそこはエンターテインメントではありませんし、純粋な力試しの場ですからね」
「本当に、その通りだった」
 皆、強かったよ。ククイは言う。
「でも、リーグを認めてもらえたんだ」
「それは良かったですね。あなたが認められたということでしょう」 
「そうだといいな」
 ところで待ち人かいと問われて、ネズはまあそんなところですと返事をした。
「図書館にいますよ」
「ああ、妻も図書館に行ったんだ。彼女も研究者でね」
「なるほど。それはまた、お互いに暇つぶしでもしますか」
 バトルはしませんけど。そんな言葉に、話し相手になってくれるだけで充分すぎる。聞きたいことがたくさんあるんだとククイは言った。
「リーグをもっと良いものにするために、どんな話も聞いてみたいんだ」
「熱心ですねえ」
 おれなんかで良ければ。そう言って、ネズは茶を啜った。


・・・


 キバナが図書館から出たのは夕方だった。ネズに連絡し、庭園に向かう。庭園前には既にネズが一人で待っていた。キバナは小走りで近付く。
「一人にしてごめんな」
「いえ、別に。ところで天文台に行きたいと言ってませんでしたか」
「そうそう! 星を見る企画をやってるみたいでさ、バスで行こう!」
 そうして、ふたりはマリエシティのバス停からホクラニ天文台へと向かった。


 ホクラニ天文台には人が少なかった。少人数の、予約制らしい。
 マーマネとマーレインという職員が貸し出していた望遠鏡や、双眼鏡を使うまでもなく、大きな空に満点の星空が広がっていた。
「すごいですね」
「ワイルドエリアの空でもこうはならないな」
「ガラルは街が発展してますから、光の影響が大きいのでは」
「たぶんな」
 あ、流れ星。そうキバナが粒やく。ネズもまた、その流れ星を見た。

 人々はひっそりと息を潜めて星を観察している。ガラルに負けず劣らず、良いところだな。キバナはほうと息を吐いていた。ネズもまた、似たように息を吐いた。
「もしも、ねがいぼしが無ければ、おれ達はもっと純粋に流れ星を楽しめたのでしょうか」
 ぽつりと言われて、キバナはそうかもなと応えた。流れ星を見ると、思い出すのはねがいぼしとダイマックスバンドだ。悪いものではない。でも、決して手放しで喜べるような良いものでもない。

 運命を決めるねがいぼしは、ネズの元には降ってきたのだろうか。そんなことは聞けなかった。だが、確かに星空は綺麗だった。


・・・


 マリエシティにバスで戻ると、今日はポケモンセンターに泊まった。まるで新人トレーナーみたいだと、キバナは楽しくなる。ネズも、ノイジーなと言いながらも、ジムチャレンジをする前の、新人トレーナー時代を思い出していた。

- ナノ -