キバネズ/サイレント3/アローラ旅です/まだまだつづきます


 ちちち、鳥の声がする。モーテルで早起きをして、朝一番のアーカラ島行きの連絡船に余裕を持って乗る。ネズは眠たそうながらも、船のデッキの眼下に広がる大海原に、ほうと息を吐いていた。
 キバナはアーカラ島はそう遠くないらしいと地図アプリを見て語る。ネズはそうだとしてもと感嘆している。
「複数の島で形成される地方は独特ですね」
「これから行く島々でも、もっと独特な風景が見られるだろうな」
「それは楽しみです」
 そうして一日のスケジュールを確認していると、アーカラ島はすぐだった。

 アーカラ島、カンタイシティ。そこそこ人が行き交うそこから、すぐに6番道路と進む。目当ては決まっていた。
「あ、あそこだ!」
「存外人が多いですね」
 そう目当ては、特殊なバトル施設。ロイヤルアベニューのロイヤルドームで行われる、バトルロイヤルに参加しに来たのだ。

 バトルロイヤルに参加申請する。リーグが出来てからというもの、他の地方からの挑戦者が増えてきているらしい。なので、他の地方のトレーナーであるキバナとネズも、スムーズにバトル申請を終えられた。
「タチフサグマ、頼みますね」
「ジュラルドン、頑張ろうぜ」
 同じリングに上がるもの同士、キバナとネズはどちらともなく握手を交わして控え室に向かった。

 かくして、バトルロイヤルを2戦、キバナはジュラルドンとフライゴンを試した。ネズはタチフサグマとカラマネロだ。どちらも惜しくも一位とはならなかったが、最下位でもなかった。
「新しい挑戦者にしては強かったな」
 お疲れさまと控え室の外のベンチで座っていたキバナとネズに声をかけたのは、金髪の、先程戦い、一位となった少年だった。
「オレはグラジオ。貴方達は、キバナさんとネズさんか?」
「おお、アタリ」
「業務で他の地方の情報も集めているからな。お忍びだったらすまない」
「いや、大丈夫」
「業務、とは?」
 まさかおまえもキャプテンですか。そう問いかけたネズに、グラジオは真逆と肩をすくめた。
「オレはエーテル財団の人間だ。リーグへの挑戦権はあるが、そこまでだ」
「謙遜すんなって」
「ええ、強かったですよ」
「ありがとう」
 グラジオはフッと笑うと、このあとの予定はあるかと問うた。キバナとネズはコニコシティまで行く予定を告げると、バトルは厳しいなとグラジオはぼやいた。
「次の試合、見て行ってくれないか。良い対戦になると思う」
「次の?」
「エンターテインメントとしての、オレの最高のバトルを魅せられる気がするんだ」
 ぜひ見てほしい。その熱い言葉に、キバナとネズは思わず頷いた。


・・・


 観客席。フィールドにはグラジオと少年のみが勝ち残っていた。実況の紹介からすると、彼の名前はハウ。昨晩、メレメレ島で見かけた少年だった。
「ライチュウ、10まんボルト!」
「避けろシルヴァディ!」
 そのまま行くぞと、グラジオが手をかかげる。ハウもまた、手を前へとつき出した。
 どちらの手首にも、同じリングがあった。
「シルヴァディ、ウルトラダッシュアタック!」
「ライチュウ、スパーキングギガボルト!」
 聞いたこともない技名と踊り、ぶわりと風が巻き起こる。これは、と、キバナとネズは食い入るようにコートを見つめた。
 どこか遠くから、司会と解説の、Z技のぶつかり合いだとのコメントが聞こえた。

 勝者は僅差でグラジオだった。ハウは悔しいなと言いつつも、晴れやかに笑う。太陽の子に見えたが、作晩の光景がまぶたの裏に浮かぶ。月の子、でもあるのだろうか。

 控え室から出てきたグラジオに、キバナとネズは面白い試合だったと声をかける。グラジオはハウがいたからなと誇らしげだった。
「オレと並ぶ実力者だ。そうでないと、Z技の打ち合いなんてできない」
「良いライバルなんですね」
「ライバル……そうも見えるかもな」
 グラジオはやや考えつつも、ハッと顔を上げて、引き止めてすまなかったと、キバナとネズをロイヤルアベニューの外まで案内してくれたのだった。


・・・


 6番道路を進み、カンタイシティに戻ると、ディグダトンネルに入る。この地方ではディグダが独特な風土に合った姿をしており、神聖視されているのだと、キバナは説明した。
「刺激しないようにゆっくり通ろう」
「そうですね、それがいいかと」

 ゆっくりと、かつ、とんとんと歩く。存外整備されたトンネルは、難なく通り抜けられた。しかし、外はもう夕方で、交番が見えた。どうやら9番道路に来たらしい。
「コニコシティはすぐみたいだ」
「ホテルの予約があるんでしたっけ」
「そうそう。露天は夜には片付けるみたいだから、明日の朝にでも市場を見ようぜ」
 今日のところは、ホテルにチェックインをしたら、アローラフォトクラブに行ってみようと提案するキバナに、アーカラの海も見てみたいですとネズは提案したのだった。

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