キバネズ/はろーぐっばい、愛しのエンドロール/ダンデさんがよく喋ります。
タイトルは脳味噌ナイチンゲール化計画(自サイト)から持ってきました。
作業用BGM→どろん(King Gnu)


 はろーぐっばい、愛しのエンドロール。

 これはネズの終演だった。同時に、完全変態、くすぶっていた蛹から羽化する瞬間だった。

 マリィがジムリーダーを引き継いだ。最後の書類にサインをすれば、おしまい。町の人々は寂しいねといいながらも、ネズとマリィの決意を受け入れた。

 ああ、終わった。ネズの胸にぽかりと穴が開く。だが、同時に始まったのだ。ネズはミュージシャンとして歩くことを決めていた。スパイクタウンを音楽で復興するのだ。その夢を諦めたわけではなかった。

「兄妹揃って諦めが悪いな」
「チャンピオンから引きずり降ろされてもなお、戦いを求めるような、おまえにだけは言われたくないですね」
 ダンデはそれもそうかと笑う。場所はスパイクタウンのバーだ。シュートシティのバトルタワーへの参加要請がダンデの今回の仕事だった。参加要請を送る相手はもちろんネズだ。
「おれは音楽に集中すると決めたので」
「だが、ポケモンのケアは変わらず行ってると聞いてるぞ」
 もちろん、エキシビションマッチだって。ダンデの言葉に、ターフタウンぐらいですよとネズはしらを切った。
「兎に角、おれはバトルタワーには行きません」
「そうか、残念だ」
 拍子抜けするほどの身の引き方に、ネズは呆れがちに息を吐いた。
「おまえは諦めが悪いのに、見極めるのが本当に上手いですね」
「褒めてくれるのか」
「おれだってたまには人を褒めます」
 そうこうしていると、ばたばたと半地下のバーに似つかわしくない足音がしてきた。
 ああ、やっと来た。ダンデが席を立つ。
「じゃあ、また」
「しばらくおまえとは会いたくないですね、バトルタワーのオーナー殿」
「はは、手厳しいな」
 ダンデが入り口で走り込んできたキバナとすれ違う。慌てた様子のキバナに、ダンデにあることないこと吹き込まれたなとネズは笑ってしまった。

 ダンデは案外茶目っ気のある人間だ。それもこれも、オーナーになってから表面化した、かれの人間性なのだが。

「ダンデと飲むならオレさまも呼んでくれよ! しかもダンデ帰ったの?!」
「ええ、少し話があっただけなので」
「オレさまは居ちゃだめだったのかよお」
「おれとダンデの問題なので」
「さみしい」
「おやおや、おまえはいつからそんなに愛されたがりになったんでしょうね?」
 どうにも気分が良かった。ネズは酒を煽る。そうして飲むような酒ではないことは分かっていたが、時間が惜しかった。

 はろーぐっばい、愛しのエンドロール。
「家で飲み直しますかね」
 どうですかと家の鍵をちらつかせると、望むところだとキバナは、にぱと、笑った。

 薄暗いバーの外は、春とはいえ暗く寒いことだろう。エンドロールにふさわしい暗闇と、開演にふさわしい消灯に、ネズはひどく、気が高揚した。
「いい酒を出しますよ」
「いいのか?」
「トクベツです」
 だから、飲み潰れてくれないでくださいね。そう笑えば、それは保障できないなとキバナは眉を下げたのだった。

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