キバネズ/サイレント/アローラ旅です/つづきます


 我が友、静寂を愛せと。

 巡り巡る季節を願う。キバナはふわと目覚める。傍らではネズが眠っていた。場所は花畑。こんな場所、現実には無いだろう。そうとすら思えるのだが、ここは現実だ。
 アローラ地方のメレメレ島、ここはメレメレの花園。島民に教えてもらったそこには、黄色のオドリドリなどがゆったりと暮らしていた。外からは見えない花園は、デートスポットとして人気らしい。だが、同時に荒らされたら困ると制限も設けているようだ。まあ、ポケモントレーナーでなければ近づけないような崖の近くにある花園なのだから、荒らすなんて輩はなかなかたどり着けないだろう。

 キバナがふと上半身だけ起き上がると、タチフサグマに埋もれたネズがふわと欠伸をした。キバナもまた、むくむくと欠伸が込み上げる。
 ふわあと欠伸をして、またごろんと寝転がる。背中にはフライゴン。ネズの後ろにはタチフサグマがいた。ジュラルドンやとストリンダー達がオドリドリ達と遊んでいるのを眺めつつ、微睡む。
 さて、どうしてこんなことになったのか。キバナは回想した。


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「目指すはアローラ旅行券!」
「またそんな。一等じゃねーですか」
「まあまあ、夢は大きくいこうぜ」
 そうですかねえ。ネズは複雑そうに眉を寄せた。スパイクタウンの商館にて行われていた大抽選会。一等の大当たりはアローラ地方への旅行券だった。

 というかおれが当たると良くないのでは。いいんだよオレさまも行くんだから。そもそもおれたちの稼ぎなら旅行券なんてなくても旅行に行けます。分かってないなー口実ができるだろ。まあ、券があれば口実にはなりますけど。

「じゃあおじさん、一回よろしくな!」
 今日分の夕食用の買い出しで回せるのは一回きりだった。
 当たれと思い切るように言いながら、大きな体を屈めて盛大にがらがらと抽選を回すと、カランと玉が落ちた。
 それは金色をしていた。
「お」
「あ、当たった……!?」
 やったなとはしゃぐキバナに、ネズは呆れた目をしていたが、すぐに商館の主人から旅行券を受け取った。ネズさんは働き詰めだから、たまには羽を伸ばしておいで。そんな優しい言葉に、ネズは検討しますねと不器用に微笑んだ。


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 それから、たまたまジムチャレンジのオフシーズンだったこともあり、トントン拍子で旅行券を使うことになった。ナックルのジムはリョウタに任せ、ネズも収録を一通り終えてから、アローラに旅立ったのだ。

 メレメレの花園の空気に微睡んでいると、そういえばとネズが言った。
「ディナーはどうしますか」
「あー、ハウオリのレストランとかどうだろ?」
「予約しときます?」
「うん。ヘイ、ロトム!」
 ロトムに電話番号を調べてもらい、連絡する。予約はきちんと行えた。なお、ランチはメレメレの花園でおおきなマラサダを食べたので平気である。
「マラサダ美味しかったなー」
「各島で食べ歩きとかしてもいいですね」
「お、それいいじゃん。そうしよ」
「構いませんよ」
 ネズが淡々と言うのでどうしたのかと見てみると、彼はまたメレメレの強い日差しを器用に避けながら微睡んでいた。
 旅行のために仕事をいくつも先に行って、出発直前までバタバタしていたのだ。お互いに、疲れているのだろう。
 キバナは、もう少し休むかと、ネズの手をぽんぽんと撫でて、寄り添い、指を絡めたのだった。

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