キバネズ/恍惚たる果実に愛の手を/マリィ、ホップ、ビート、チャンピオン(名前不明/容姿不明/色々不明)も出てきます。
タイトルは脳味噌ナイチンゲール化計画(自作サイト)から持ってきました。


 艶と恋とたっぷりのメレンゲ。

 メレンゲケーキを焼いた。お茶会用のそれは残るはクリームと果実を置くだけだ。
 スマホが鳴る。画面を見れば、もう少しで着くとの連絡だった。
 こどもたちとキバナを招いたお茶会は今回が初めてではない。でも、今回は特別な日だった。マリィしか知らないだろう、特別な日だった。そんな日だからこそ、ネズはお茶会をしようと決めた。

『アニキ、ほんとに誕生日だって伝えなくていいと?』
 昨晩、マリィからそんな電話がかかってきた。伝えませんよ。ネズは穏やかに返す。
「ずっと可愛い妹と祝ってきた日に、可愛い友人と大好きな人を招くことができるんですから」
 それだけで充分です。そんな言葉に、マリィはじゃあと言った。
『来年は誕生日って言って』
 きっと、キバナさんは喜ぶから。その言葉に、喜ぶなんておかしな話とネズは笑ってしまった。

 こども達とキバナがやって来た。小さなネズの家はそれだけでいっぱいになる。小さな机を2つ並べて、クリームと果実で飾り付けたメレンゲケーキと、紅茶を並べた。
「ネズは相変わらず器用だなあ」
 すごいなとケーキを褒めるキバナに、これぐらいなら誰でも覚えさえすれば出来ますよとネズは上機嫌に答えた。

 サクサクとした生地にしっとりとしたホイップクリーム、みずみずしい果実は実にケーキとして特別な仕上がりとなっていた。こども達の中だと、ビートの反応が良かった。いつかポプラさんに作りたいと告げる彼に、後でレシピを渡しますねとネズは返した。

 ホップは最近はワイルドエリアの調査をしていると言い、チャンピオンは定期的にリーグ戦を行っていると公言した。そんな中でマリィは口数少なく、ちらりと兄を見ている。

 本当に、とびっきり特別な一日にするつもりはないのに。ネズは皆の話にくつくつ笑う。当たり前のように未来を語れるこどもたちと、それを聞きながら笑みを浮かべる恋人がいれば、それだけで充分に特別な一日だ。

「そういやお土産持ってきたんだった」
 キバナが鞄から何かを取り出す。それは使い捨てのカメラだった。アナログなそれに、お前にしては珍しいとネズは心の底から驚いた。
「これ、ネズに渡そうと思って」
「どうしてまた」
「こういう、お茶会の時に記録を残せるようにってこと。スマホもいいけど、アナログなカメラもいいもんだぜ」
 使い方は分かるか。そう言われて、ネズは何とかと返す。試しに皆を撮ってくれよと提案されて、ネズはこどもたちやキバナの写真を撮った。
「じゃあ、ほら、ホップに渡して」
「え?」
「ネズも必要だろ?」
 ネズとキバナが並び、ホップが写真を撮る。ぱしゃり、機械音がどこか懐かしかった。
「なあネズ、今日は呼んでくれてありがとな」
 隣に並んだまま、キバナは言う。こどもたちもまた、ありがとうと口にする。
「こうして集まるのも、機会を作らないとなかなかままならないし」
「それもそうですね」
 ジムリーダーにチャンピオンに博士の助手に、ミュージシャン。誰かが声をかけなければ、集まれることはないだろう。
「だから、ありがとう」
 そう何度も言わなくても。そう告げようとして、皆の柔らかな目にネズは言葉を失った。マリィがこつんと横腹をつついた。
「ね、アニキ」
 とっくにバレてるよ。そんな視線に、ネズはくしゃりと破顔した。
「ありがとう、ございます」
 小さなネズの家。ポケモンたちがモンスターボールの中から、ほら見ろご主人は愛されてるんだと胸を張っていた。

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