キバ→←ネズ/未知との遭遇
スパイクタウンとナックルシティを結ぶトンネル。そこで彼らは落ち合った。何でもない用事、ジムリーダーの雑務だった。ジムトレーナーに頼んでもいいことを、二人は頼まなかった。それだけのことだった。
知らないものを人は怖がる。ネズはそういう人だった。ネズは人より知らないものを知ってきた。知らなくてもいいことを知ってきた。だから、自分の知らないことばかり知る彼が、恐ろしかった。
「オレはネズが好きだ」
連絡事項の確認後。言われた。
そんな言葉は聞きたくなかった。汚れきった己の愛に、真心を返されるなど、あってはならなかった。
キバナはきれいだ。何よりも綺麗だ。純粋で、反骨精神もあって、ひたむきに努力する男だ。己とは違う。ネズは薄暗いスパイクタウンの奥の奥でひっそりと生きている。
バトルは好きか?
イエスだ。バトルは好きだった。だから、ジムチャレンジ出来たし、ジムリーダーもこなせた。
町は好きか?
これもまた、イエスだ。町が好きで、廃れ行く様が辛くて、何もできなかったのが、ネズだった。
キバナは好きか?
そうだ、その通りだとも。ネズは答えない。愛してるのエールをあげよう。それぐらいの気持ちだ。そんなにも、軽くて、重たかった。
「オレさま、ネズとバトルできると思うと、嬉しくてたまんないんだ」
褐色肌の健康的な青年が笑う。バトルのときの獰猛さとは一転、普段は温厚な青年だった。目が潰れるように、眩しいほど。
ネズはどうすれば良かったのだろう。恋を捨てれば良かったのだろうか。愛を歌わなければ良かったのだろうか。すべて、すべてを彼は受け止めた。
「ネズもオレのことが好きだろ」
それは傲慢ではない。事実だった。彼は事実のみを積み上げていた。
「どうして、どうしておまえはそんなに眩しいんですか」
薄暗い己とは大違いだ。そんなふうに言えば、キバナはきょとんとしてからニッと笑った。
「ネズ、知ってるか」
「なにを」
「オマエがバトルするときの目、知ってるか?」
こちらを射抜くあの目を。それは、おまえの目だろう、に。
「心の底まで見透かされるような、あの目を見て、確かにオレさまは、オマエを愛したいって思ったから」
そんなの、そんなのあんまりだ。
「おれはおまえのその目が、嫌いです」
嫌いだ。その射抜く目に、見惚れる己が嫌いだ。
「その目に見つめられなければ、おれは」
こんな惨めな思いをしなくて良かったのに。
ひっく、ひっくと音もなく不器用に泣く男。ネズはそんな男だった。キバナはそんな骨ばっかりの男の背を撫でた。背中は一定のリズムで揺れている。
「愛してる」
それがどれだけネズを傷つける言葉だとしても、キバナは正解だと信じている。
たっとい愛を、彼らはよく知っていた。