キバネズ/二度目の閃光、矢落ちて弓は緩む。6/おわり


 バトルをしよう。キバナは口に出していた。
 昼下がりの、スパイクタウンの、奥の奥の、ネズの家。ぴんっと緊張が走る。ホップが恐る恐るネズを見ると、彼は目を伏せて、コクリと頷いた。それがどうにも、悲しくて、ホップは審判なら任せてとしか言えなかった。


 スパイクタウンのバトルコート。無人のそこは、エール団とホップが周りに頼み込んだからだ。
 無観客の中、バトルコートでネズとキバナが向き合う。アーケードの隙間から光が漏れて、天使の階段がいくつも見えた。そろそろトタンを張り替えないと。ネズは穏やかに言った。
「バトルをするからには、負けませんよ」
「うん、そうだな」
 ホップが高らかに告げる。
「一対一のシングルバトル、両者、ポケモンを!」
「頼むぜジュラルドン!」
「おいでタチフサグマ!」
「バトル、はじめ!」
 火蓋が切られる。先制はジュラルドンのドラゴンクローだった。しかしネズはブロッキングを指示、防いだ。

 そこからは雪崩のようなバトルだった。繰り出される技と技がぶつかり合う。ネズは歌うように指示を出す。マイクも無いのに、歌っているようだとしか言えない。キバナは獰猛な顔でバトルに食らいつく。

 瞬間、薄いブルーとエメラルドグリーンが合った。あ、と声をもらしたのは、ネズだった。
 隙あり。キバナがアイアンヘッドを放つ。
「タチフサグマ、ひんし! よって勝者はキバナさんだ!」

 ネズはタチフサグマに駆け寄り、そっと撫でる。タチフサグマは労るようにネズを見つめて、目を伏せた。ボールに戻ると、キバナがネズの前に立っていた。影が、差す。

「どうして」
 キバナは子どものように告げた。どうして、集中してくれないんだ。
「前は、ずっとオレさまを見ててくれたのに」
「見れないんですよ」
「どうして?」
「分かってるくせに」
「わかんないよ」
「そうでしょうね、おまえには、わかりませんよ」
 ねえ、キバナ。薄赤い口がかぱりと開く。
「おれはおまえが好きですよ」
 さよなら。これでもう、終わらせてください。
「こんな苦しい恋は、もう散々なんです」
 終わらせましょう、私の恋を。終わらせましょう、私の愛を。
「大好きですよ、キバナ」
 ネズは光の中で泣き、笑っていた。

「勝手に終わらせないでくれよ」
 頼むよ。キバナは手を差し伸べる。ぎゅっと、ネズを抱きしめた。
「オレもオマエが好きだから」
「同情なんていりません」
「うん、オレの"好き"より、オマエの"好き"の方がずっと、重いだろうけど、でも、オレさま気づいちゃったんだよ」
 だから、終わらせないで。キバナは悲痛に叫ぶようだった。柔らかで、温厚な、叫びだった。
「オレ、ネズがすきだよ」
 本当の本当なんだ。そんな声に、ネズはくたりと体の力を抜いた。
「ばかなひと」
「心にもないことを言うなって」
「ええ、そうですね」
 ありがとう。ネズは、ついぞ、キバナを抱きしめ返さなかった。それでも良かった。キバナは唯、ネズを失いたくなかったのだから。

 そう、それこそが"恋"なのだから。





『二度目の閃光、矢落ちて弓は緩む。』
あの日、キューピッドは確かに矢を射ったのだ。


・・・


おまけ

ネズ→これからが大変。キバナさんを恋に落とした罪は深い。幸せになってね!

キバナ→身勝手で不公平な恋に落ちた。ネズさんにアタックする日々が始まる。幸せになってね!!

ダンデ→知らないうちにライバルが恋に落ちた。なんか知らんが頑張ってくれ。

ソニア→悩むのなら諦めて早く幸せになってほしい。

ホップ→何にもしてないのに今後めちゃくちゃ感謝される未来が見える。何にもしてないのに!

チャンピオン→なんと、ホップくんを招待すると確実に最後まで勝ち進んでくれるのだ! 不条理の塊。特に設定はない。

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