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山姥切長義+大包平


 他の本丸への伝令任務。目的地である本丸屋敷から離れた位置にあった門には、迎えの刀がまだ来ていなかった。

 おそらく、こちら側の門の設定のミスだろう。長義がそう判断する横で、大包平はそうだろうなと空を見上げた。中天の太陽、約束の時間は夕暮れのはずだった。
「暇潰しに何か話すかい」
「特に話題がないだろう」
「それもそうだね」
 長義はくるりと指を回して、浮き出た何かを手にした。大包平がきゅっと眉を寄せたので、長義はくつくつと笑った。
「ただの紐だよ。綾取りでもしようか」
「それも、政府にいた頃に身に着けた技術か」
「まあね」
 そんなところだよと、長義は長い指に輪にした紐を絡めた。
「大包平さんは綾取りできるのかい?」
「以前、毛利に覚えさせられたから、多少はできる」
「それなら、どうぞ」
 川のようになった紐を、大包平の大きな手がすくい取る。するりと作れられた新たな模様に、手の手入れもきちんとしているのだなと長義は少しばかり嬉しくなった。刀剣男士であるので、手が荒れたところで己を振るうことに影響は出ないが、それ以外では痛いやら滲みるやらで大変なことが多い。政府にいた頃に手が荒れた時は、担当の人間から手荒れ用だという軟膏を塗りたくられた。人の子に触れられるのは心地良いが、軟膏を塗られるのは不満だった。長義は与えられるより、与えたいのだから。
「おい、次はお前だろう」
 ずいと紐を差し出す大包平に、そうだねと長義は紐を指にかけた。

 そういえば、どこで綾取りを覚えたのだったか。

 ふっと意識が遠退いたところを、おいと声をかけられて長義は瞬きをした。いけないな、長義は息を吐いた。
「以前のことを思い出したんだ」
「政府にいた頃か」
 不思議そうな大包平の鋼色の目に、長義は目を細める。
「そうかもしれないね」
「要領を得ないな」
「だって、もう俺は主の刀だから」
 そうだろうと暗に同意を求めた長義に対し、大包平は呆れたように息を吐いた。
「思うぐらい、主はお許しくださる」
 その器がある方だ。心の底から信用しているのであろうと感じられる言葉に、長義は、主は人徳のある方なのだなと思った。
「大体、お前はいちいち細かいことを知り過ぎているんだ! 鶯丸の様な事を言うのは性に合わんが、もう少し大雑把になれ。もたんぞ!」
「大包平さん声が大きいよ」
「心配しているんだ!」
 全くと大包平は紐を差し出した。綾取りは続けるらしい。
「電子機器の使い方やら、雑踏への紛れ方やら……知っていて損はないが、いつも覚えていなければならないものではない!」
「そうかな」
「そんなものは使う時だけ思い出せばいい。普段は忘れていろ! 人の器はいくら考えようと、どうせ一つのことしか出来ん!」
 ぶつくさと続けた大包平に、長義はそうだねと笑みを浮かべた。
「そう、俺たちはそんなに器用じゃないんだ」
 声音に混じる哀れに、大包平が片眉を上げたとき、長義には遠く、迎えの刀が見えたのだった。



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