信号機

不動行光+太鼓鐘貞宗+愛染国俊/不動視点


 夏日のこと。
 よく晴れている。空を眺めていると、ふと晴天の下を歩く赤い髪の刀剣男士が見えた。愛染だ。
「愛染ー!」
 そう呼ぶと、愛染はくるりと振り返る。Tシャツにズボンだけの軽装の彼は、ぱっと顔を明るくする。
「不動、かき氷食べようぜー!」
 今から厨に行くんだと意気込む彼の、地を踏む素足が夏の光の下できらきらと眩しかった。

 先にかき氷のシロップを選んでね。そう燭台切に言われて、いくつも並ぶ瓶を眺めた。赤はいちご、青はソーダ、緑はメロン、黄色はレモン。愛染は緑色に指を伸ばした。
「俺はこれ! 不動はどれにするんだ?」
「レモンにするよ」
「あれ、もう決まったのかい?」
「おう!」
 早いねと言いながら、燭台切は氷を削っていく。キラキラと輝くかき氷に、とろりとシロップを垂らす。愛染の手の中の緑が、どこか幼く見えた。

「蛍丸と明石の色か?」
 適当な空き部屋でかき氷をつついている時に、俺はそう問いかけた。愛染はぱちぱちと黄色い目を瞬かせる。ああ、レモン色だ。俺は口の中のレモン味を思った。
「べつに、そーいうわけじゃねえけど」
 メロン味も美味しいだろって当たり前のように笑うから、根っからの兄弟思いだなと笑ってしまった。
「ソーダ味も気にかけてるんだろ?」
「何の話だ?」
「ふふ、いーから、早く食べちゃおう」
 頭が痛くならない程度にねと俺はクスクス笑った。


 目が覚めるような青色を思う。ソーダ味は、夏の味だ。
「なんだよ」
「いや、目の色が似てるなって」
「誰にだ?」
「愛染」
 太鼓鐘はばちばちと瞬きをしてから、ちょっとだけ嫌な顔をした。そのまま、麦茶の入ったグラスを持ち上げて、ぐいっと一気に飲み干す。イッキってやつだ。
「不動には指摘されたくなかったぜ」
「なんだいそれ」
「愛染に言ってもらいたかったんだ」
「あいつは言わないよ」
「愛染は兄だから?」
「蛍丸だって言わないだろうね」
 むうとむすくれる太鼓鐘は、愛染よりずっと子どもっぽく見えた。いつもの伊達男はどうしたんだと思うが、これは俺に気を許してくれているということだろう。
 午後の日溜りが、外にある。ここは戸を開け放った、涼しい部屋。ちょっとだけ、薄暗い。灯りを付けるほどではないけれど。
「蛍丸と明石についてどう思う?」
 問いかけると、太鼓鐘は兄弟だろと言った。
「兄弟で、保護者で、いつも仲良しなやつら」
「そうだね」
 嫉妬だ。俺はすぐに分かる。
「仲良くなりたいんだよね?」
「おう」
「じゃあ、嫉妬してたらその隙に、誰かに先を越されるよ」
「不動とか?」
 黄色い目がこちらを向く。存外、不器用なやつだと、笑ってしまう。
「愛染の兄は誰だろうね?」
「明石は保護者っぽいもんな」
 これで話はお仕舞いだと、太鼓鐘は席を立つ。残ったグラスの氷が、からりと傾き、落ちた。



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