ある少女の描いた肖像画

ある少女の描いた肖像画/刀剣乱舞/獅子王夢/女審神者(少女)(夢主)と獅子王の話/あくまで主従です。
タイトルはCock Ro:bin様からお借りしました。


 真っ青な顔色をしている。
「また食事を抜いたのか?」
 信じらんねえ。獅子王はそう言って女主の腕を引っ張った。引っ張らないで、私はまだ描きたいの。女主という審神者は真っ青な顔色で言う。気を抜けば震えそうな手を強靭な神経で押さえつけて、ぎっと赤い目で獅子王を見上げた。少女である女主の容姿は他人とは些か異なっている。白い髪に赤い目で、肌は青白い。鬼だと、本人は言う。ただ、髭切はやわらかく微笑んで
『あれは鬼だよ。でもねえ、悪い鬼じゃあないんだ』
 絵に心を売った鬼(異形)さ。髭切はそう言っていた。

 獅子王は審神者を立たせると、よっこらせと背負っていやいや言うのを無視して進む。
 やがて食堂に着くと、用意しておいたおじやを彼女の前に置いた。
「食べろよな」
「私、嫌だって言いました」
「食べなきゃ人間は死んじまうって、俺、ちゃんと言ったよな?」
「私は鬼ですから」
 女主はどうにも髭切の言葉を皮肉と取っているらしい。面倒な。獅子王はハアと息を吐いた。
「主は人間だよ。どーしようもない人間だ」
 だから食って寝ろ。起きたら風呂だと、獅子王は審神者にスプーンを押し付けた。

 一振り、眠る主を見る。とんとんと平野がお茶を運んできた。よく寝ていらっしゃいますね。彼はそう言って嬉しそうに微笑んだ。
「なあ平野」
「はい、なんでしょう」
「お前も主を鬼だと思うか?」
 平野はぱちりと瞬きをして、そうですねえと辺りに散らばる絵の具を見つめた。眠る直前まで描いていたのは、女主の肖像画だった。深い茶色の背景に、無表情の女主がこちらを見て立っている。その髪の白いこと!目の赤いこと!肌の青白いこと!本物より本物らしいそれを、怯むことなく平野は一瞥した。
「これを描けるのならば、少なくとも普通の人間では無いでしょう」
「だったら、鬼か?」
「いいえ、僕は主様を鬼とは思いません。そうですね、例えば……」
 そうして暫く黙ってから、平野はぽつりと言った。
「絵に魂を売った人です。あくまで、主様は人です。どうしようもなく、どうしても、何があっても」
 だから、主様は地獄の門を開くのでしょう。平野は難しい顔をしている。獅子王はそれを笑わない。受け入れもしない。ただ、そうかと答えた。
「変なこと聞いて悪かったな」
「いえ、これぐらいは平気ですよ」
 獅子王様もあまり気を詰めないように。平野はそう不器用に微笑んでから、部屋を出た。
 枕元に刀を起きながら、獅子王は肖像画を眺め、思う。
「もし、主が絵に魂を売ったのなら、どうして俺たちを降ろしたりなんてしたっていうんだよ」
 分かんねえよ。獅子王はそう言って小さく丸まって、目を閉じたのだった。

- ナノ -