妖精の村の子とマリルの話

妖精の村の子とマリルのはなし/女主/80000hitお礼リクエスト企画の作品になります。アンタレス様、リクエストありがとうございました!


 小さなきのみが実っている。届かないやと諦めると、足元にいたマリルがみずでっぽうで落としてくれた。拾えば、それはまだ固いきのみだったけれど、保存食にするなら丁度良かった。
「ありがとう、マリル」
 いくつか籠に入れてから頭を撫でると、マリルはにこにこと笑って跳ねた。やけに跳ねるのはルリリの時から治っていない癖だけど、特に問題はないので無理に治す必要はないと判断している。村の長老も、大丈夫だと占ってくれていた。

 人里から離れた小さな集落。ここは妖精の村。フェアリーポケモンと共に生きるこの村の、まだ独り立ちするまえの子供がわたしだ。
「マリル、お母さんのところに行こう」
 そう言うと、マリルは先に歩き出した。後ろをついていくと、マリルの尻尾が揺れているのがよく分かる。機嫌が良いみたい。ふふと笑ってしまった。

 家に戻ると、お母さんがお帰りと声をかけてくれた。お母さんの周りには、フラエッテやフラージェスがいて、家事を手伝っている彼女たちの花は生き生きとしている。
「女主ちゃんとマリルちゃん、いつもありがとう。そうだ、今日はお八つがあるのよ」
 はいと渡してくれたのは穀物のクッキーだ。粗挽きのそれは香ばしくて、わたしはマリルと分けっこして少しずつ食べるのが好きだった。

 今日は涼しいからと、外に出る。村の子供たちは立派な戦力で、隣の幼馴染は麦の収穫をしているらしい。当のわたしはきのみの収穫がお仕事で、家ときのみ畑を三回は往復している。
「マリル、今日も平和だね」
 そうだねと言うようにマリルが鳴く。ぽよんぽよんと跳ねて、階段から転げ落ちた。怪我をしてないかと、慌てて階段を駆け下りれば、マリルは傷一つない姿で楽しそうに笑っていた。
「ねえ、マリル。いつかわたしが独り立ちしたら、一緒に来てくれる?」
 マリルはきょとんとわたしを見上げた。どうしてそんな事を聞くのと思っていそうだ。
「独り立ちしたら、バトルすることも、あるかもしれないんだよ」
 この村ではバトルなんてそうそう起きないけど、外は違う。旅なんかしたら、それこそバトルの連続だ。
 独り立ちして旅したいけれど、マリルはバトルが嫌かもしれない。もしそうだったら、わたしは他のフェアリータイプを相棒に、旅をしなくちゃいけない。無理強いはしたくないと言えば、マリルはつぶらな瞳を鋭くして、わたしの足を短い手でぺしぺしと叩いた。痛くはないが、不満らしいことがわかる。
「じゃあ、わたしと一緒に居てくれるの?」
 いいのかと問えば、マリルはぽんっと胸を張った。なんだ、心配なんていらなかったんだ。わたしはギュッとマリルを抱きしめた。みずタイプ特有の冷たさがあるのに、マリルはとっても温かった。

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