午後3時の店内
 
 喫茶7番目を経営する小川家の次女の清花です。
 現在午後3時。この喫茶店でご法度の取引を発見しました。注文書を叩きつけるかと、私は歩く。わざとコツコツと音を立てて近寄り、机の前に立って、勢いよく腕を振りかぶった。

ッターン!!

 いい音が店内に響く。二人の客は丸い目をして、冷や汗を流した。悪い人たちではない。犯罪の取引ではない。ただし、商談だ。
「またのご来店をお待ちしております」
 逃げるように金を置いて去って行った客を見送る。しっかり扉も開いてあげたのだから感謝してほしい。
 今日も清花さんは元気だねと、常連のお爺さんが笑った。あははと笑っておいた。目が笑っていないのは自覚している。

 お姉ちゃんが駆け寄って来て、ぽんと肩を叩いてくれた。良くやったと小さな声で褒められる。私は視線で返事をして、水の入ったピッチャーを持った。

 米花で商売をすると何かしらに巻き込まれることがあり、未然に防ぐには徹底した対応が求められる。
 注文書を叩きつけるのは下手をしたら悪意を増幅させるが、そもそも滅多にそんな事はしない。今の客はかなりのレアだった。確率1パーセントにもならないSSRだ。

 淡々と業務を続けていると、キッチンに立つことが多い。私はそもそもホール担当ではないのだ。
 サンドイッチを作り、スープを煮込み、序でに新メニューを考える。軽食の新メニューは基本的に私の担当だ。

 キッチンを父と担当していると、バタバタとお姉ちゃんがカウンターから顔を出した。
「来たっ」
 え、誰が。とは思わない。色の薄い顔を、青ざめて、お姉ちゃんは不安そうに呟いた。
「死神……」
「冷静に対応しようよ」
 そうだねとお姉ちゃんは深呼吸をし、死神こと江戸川コナンを出迎えた。
 少年探偵団で来店したようだ。阿笠博士が保護者である。お姉ちゃんのお気に入りの灰原哀もいるなと思った。

 事件だけはやめてほしいと思いながら、注文されたコーヒーを淹れる。コーヒーと紅茶が売りの店だ。手は抜けない。軽食はオマケである。
「お姉ちゃん、紅茶ひとつとレギュラーふたつ!」
「了解! アイスは?」
「バニラでしょ、用意できるよ」
 サッサと全て用意すると、お姉ちゃんが少年探偵団の机に注文の品を置いた。
 以上でよろしいでしょうか、ごゆっくりどうぞ。お姉ちゃんが笑った。少年探偵団の子供達と阿笠博士は笑顔で良い返事をした。

 とりあえず何ともないだろうな。私はそう決めつけて、キッチンに立ち続けたのだった。



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