店員その2ぐらいのモブです
 
 私は小川密紀。小川家の長女であり、なんかよくわかんないけど名探偵コナン、オタクがDCと略したり略さなかったりする世界にトリップしていた一人だ。なお、一家でトリップですそんなバナナ。

 でも私物はわりとそのままだった。名前は勿論、年齢や経歴もわりとそのまま。大学生の妹が帝丹大学に通っていることになっていたり、小学生の妹が帝丹小学校に通っていることになっていたり、なんか知らんが喫茶店を経営していたりしたが、わりとそのままだった。
 私は家族で経営する喫茶7番目にて、店内に飾るアンティークや本を選んでいたようだ。紅茶も私が最終決定をしているらしい。本も紅茶も先日自分で仕入れたので、間違いない。
 雑誌や美術館や博物館関連は母、パンやコーヒーは父。フードメニューは大学生の妹が中心。細々としたことは全員で分担して、小学生の妹は看板娘だ。

 今日は月曜日。週の始まりに疲れた人たちが入店するだろうなと思っていたら、若い女の人がやって来た。
(梓さんだー?!)
 ロリ顔可愛すぎて全私がビビる。童顔家族だが、私は唯一年齢相応な顔をしているので、耐性はあってもテンションは上がる。
「何名様ですか?」
「えっと、待ち合わせしていて……後から一人来ます」
「では此方へどうぞ」
 冷静になれ密紀。私はロリコンではないし、梓さんはロリではない。顔もガン見しない。目は逸らし、いつも通りを心がける。
「此方です」
「あれ、四人席でいいんですか?」
「空いているので構いませんよ」
 メニューと水と手拭きを置いたら呼ばれるまでは近寄らない。そっと離れようとすると、あのと声をかけられた。
「あの、おススメはありますか?」
 初めて来たのでよく分からなくてと梓さんは申し訳なさそうに言った。初来店で困ることは多いだろう。というか常連でも地味に困ることが多い店だ。喫茶7番目は、季節限定メニューがやけに多い。
「こちらは春限定メニュー表ですので全て注文可能ですよ」
「え、四季で分けてるんですか?」
「日本は四季を大切にしいますので」
 なお、一週間限定メニューなんかもある。桜前線に合わせて桜餅を提供したりするのだ。
「どうしよう……」
「では、私個人としてのおススメでよろしいですか?」
「勿論です!」
「それでは」
 私は隣の席用のメニューを広げる。
「今はランチですので、春限定の菜の花パスタがおススメです。飲み物はセットのダージリンでしょうか。デザートもお付けできますよ」
「わ、じゃあそのパスタとダージリンで。デザートは、うーん、プリンでお願いします」
「ありがとうございます」
 注文書にサラサラと記入し、複写した紙を机に置く。カウンターに向かい、お父さんに注文書を渡した。
 お父さんは紙を受け取りつつ、梓さんをちらりと見た。
「あれってポアロの店員さんか?」
「きっとね」
 そりゃ大変だと、お父さんは笑ってパスタを作りに向かった。

 他の客に対応していると、カランと扉が開く。今の時間はお母さんとお父さんと私で店を回している。いらっしゃいませと振り返ると、金色の髪が揺れた。
「すみません、友人がいると思うのですが」
(安室透だー?!)
 内心、膝をパシンと打って爆笑した。江戸川コナン程ではないが、中々の台風の目だ。実は来て欲しくなかった。ちなみに私は安室透をアニメで見た時から、イケメンだけど何でか顔を殴りたくなる、という印象だった。今も顔を一発殴りたい。しないけど。

「お連れ様ですか?」
「ええ、黒髪の……」
「彼方の方ですね」
 梓さんの元に案内すると、梓さんがパッと顔を明るくした。可愛い。これは国宝級の可愛さだ。

 安室さんはカフェオレとサンドイッチを注文した。大人しく注文書に記入し、お父さんに紙を追加だと渡す。お父さんは浅く頷いた。
「何かあったら叩きつけろ」
「死神ではないと信じたい」
 それだけ交わし、私は空いた皿を回収しに向かい、お父さんは調理に戻った。

 梓さんと安室さんに全てのフードメニューを運び、飲み物の確認をしてから提供する。
 紅茶は私が自ら淹れた。コーヒーは飲めないので、安室さんにカフェオレは出せない。カフェオレはお母さんが淹れた。ぶっちゃけ怖いなと思いながら、いつも通りに過ごす。

 しばらく食事を楽しんだ梓さんと安室さんは会計をして、喫茶7番目を出て行った。
(やっと帰った……)
 梓さんは何度来てもいいけど、安室さんはあまり来ないでほしい。失礼なことを思いながら、ふと、7という数字を思い出す。ラッキーセブンの筈なのに、波乱の予感がする。

 しかし、7という数字はいくらでも意味を考えられるなと思いながら、私は注文頼むという声に返事をしたのだった。



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