プロローグ2
 
 米花町○丁目○○番地。いや認識できない住所ってどこだよとは思うだろうが、喫茶7番目と宛名に書けば郵便は大体届く。

 静かな住宅街の隅、大通りから外れた場所にその喫茶店はあった。

 老舗の喫茶店を改装して出来たそこは、大正浪漫の雰囲気が漂うアンティーク調の店だ。何気に各地の美術館や博物館と連携を取っていて、チケットを見せるとドリンクが一杯無料になる。

 地元住民御用達であり、観光客はあまり来ないそこは夕方の5時までの営業だ。ただし朝は空が白んでいる4時から入ることができる。なお、営業時間は朝8時から夕方5時。昼休みは1時から2時だ。夜以外なら時間外でも店内には入れてもらえる。ただしオーダーは営業時間のみ、ラストオーダーは4時。清掃は夜だが偶に不定休で大掃除をしている。定休日は木曜日。ただ、木曜日でも気まぐれに店内に入れてもらえたりする。

 ゆるい店だが、犯罪都市かよと言うぐらい犯罪率の高い米花町の店らしく、怪しい行動をした人間は即座に摘み出される。
 不思議と事件が起こらない民間施設。そんな噂がどこぞの刑事の間で囁かれているとかそんなの知らないなあとは店主の言葉だが、しらばっくれているだけである。

 ちなみに、何らかの取引をこの喫茶店でしようものなら、正規でも非正規でも表でも裏でも、店員が笑顔で注文書を机に叩きつけてくる。この店の暗黙のルールであり、この行為の訳は『今すぐ出てけ』だ。これを無視した場合は遠慮なく通報される。この意味がわからない一見さんなどには、店員の丁寧な『今すぐ出てけ』が伝えられるので安心してほしい。何も怖くないよ。

 そんな喫茶7番目はぶっちゃけ町の交流の場であり、情報交換の場であり、朝から晩まで事件に疲れた米花の人々の、癒しの場なわけである。

………

カランカラン

 喫茶7番目の扉が開く。いらっしゃいませと、店員の若い女性がこちらを見た。
「お一人様ですか? カウンター席がおススメです!」
 言われるがままにカウンター席に座ると、店主の男性が水を置きがてらメニュー表を差し出した。
「今は空いてる時間なのでたっぷり迷ってください」
 ご満足の出来る時間を約束しますと、人好きのする顔で笑ったのだった。



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