プロローグ
 
 小川家の朝は早い。大黒柱である修一は早朝に出勤し、妻の裕子は彼に弁当を渡すためにもっと早くに起きる。具体的に言うと朝四時半に起きている。
 長女の密紀は病気がちながら、夕方のバイトに向けて朝起きる。次女の清花は遠い大学に通うために授業の2時間前には家を出る。三女の智恵は近所の小学校に通っているので起きるのはそんなに早い時間ではない。

 そうして一日に家族全員と顔を合わせるのは妻の裕子ぐらいである。

 裕子は今日も早起きをして弁当作りに取り掛かった。朝食は各自が食べたいものを食べるので用意しなくて良い。
 150センチメートルも無い身長でいつも通りに台所へ来て、唖然とした。二度見し、目を閉じて、もう一度開く。

 そこにはいつもの台所が無かった。
「……?」
 裕子は静かに台所を出た。二階へ上がり、夫である修一の元へ向かう。
 修一は起き上がり、唖然としていた。
「裕子さん」
「はい、修一さん」
 二人は顔を見合わせ、先に口を開いたのは修一だった。
「ここは、どこ?」
 現在地、見知らぬ館。館ではなく、ただの一軒家だが、昨日寝る前に彼らが見た、いつもの家ではなかった。

「ここどこ?!」
「お母さん?!」
「うむう……?」
 順番に長女の密紀、次女の清花、三女の智恵であった。混乱する二人と、状況が飲み込めていない小学生に向けて、父の修一は告げた。

「とりあえずご飯を食べよう」

 腹が減ってはなんとやら。彼らは久しぶりに揃って朝食を食べたのだった。



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