定休日
 
 夏となった。私、密紀は眩しい日差しに目を細める。なんて良い天気なのだろう。梅雨明けは今日だったか。
「お姉ちゃん、届け物が来たみたいなんだけど」
「ああ、暑中見舞いかな。お父さんに持って行こう」
「これぐらい一人で持っていけるよ。お店の方をお願い」
「分かったよ」
 清花が奥に消えたのを見て、私はよいしょと袖をまくった。今日は定休日にして、清掃の日だ。晴れているから、徹底的に小物の類を磨き上げると決めていた。

 窓際の席でアンティークの品々を一つ一つ丁寧に磨いていると、あのと声をかけられた。いつの間にか、空いていたドアから誰かが入って来たらしい。
「すみません、今日は定休日なのでいつものサービスはできませ、ん……?」
「そうですか」
(トリプルフェイスが来よった!?)
 この人絶対定休日のこと知ってただろうと思いつつも、ゆっくりと手元に視線を戻す。休憩所として使えばいいと言外に告げてしまったので、追い出すこともできない。

 降谷さんはスーツ姿で離れた席に座った。買ってきたらしい缶コーヒーを飲みながら、朝置いた今日の新聞を読んでいる。
 私は思考を放棄して黙々と作業を続ける。古い物たちを一つ一つ丁寧に磨き上げると、息を吹き返したかのように彼らは明るい顔をする。古時計はカチカチと音を鳴らし、陶器の天使はラッパを鳴らす。
 すっかり人がいることを忘れて没頭していると、コトコトと智恵が近寄ってきた。
「お姉ちゃん、オルガンを教えてほしいの」
「この子が終わったらね。曲を選んでおいで」
「はい」
 楽譜の入った戸棚を漁り始めた智恵を確認してから、手元の懐中時計の埃を綺麗に取り除いた。

 オルガンの前の椅子に智恵が座る。私はその隣に立った。
「お手本を弾くね」
 そうして三つほどフレーズを弾くと、智恵は頷いた。
「やってみる」
 拙い指先でぽんぽんと音を確認していく智恵を見守りながら、楽譜を確認する。知っている曲だと再確認していると、視線を感じて振り返る。だが、店内にいるたった一人、降谷さんの目は新聞を見ていた。
(なにこれこわい)
 関わらんとこと思いながら、私は智恵にアドバイスするべく口を開いたのだった。



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