私が守るとは言わないけども
 
 月に雲がかかっている。清花はその事に気がつくと早めに寝る事にした。
 清花は密紀と同じ部屋だ。二段ベッドの下段で、密紀は眉を寄せて寝転がっている。
「お姉ちゃん、早く寝ちゃいなよ」
「清花も早く寝てね」
「お姉ちゃんが寝たら考える」
 仕方ないなあと密紀は微笑む。その顔は青白い。低気圧がどうのと、キャスターが話していたことを清花は思い出した。
「ホットミルクでも飲む?」
「ごめん、お願い」
「謝らなくていいから」
 清花が席を立つと、密紀はくるりと布団に包まった。


 ホットミルクをふたつ。清花はひとつを密紀に渡すと、自分は椅子に座った。残念ながらまだ消灯は出来そうにない。清花はまだやるべき勉強が残っていた。
「私は気にしないで。ちゃんと寝るわ」
「ふうん」
「信用無いなあ」
 でも嬉しいよと密紀は笑った。嘘つきだなと清花は思いながら、今日の喫茶7番目の様子を回想する。
「今日は赤井さんが来たね」
「……そう、まさかの素顔」
「それな」
 ズバリと清花が言うと、密紀は気まずそうにホットミルクを飲んだ。
「禁煙の事は伝えたから、そう来る事はないと思うよ」
「お姉ちゃん、毛利小五郎もたまに来ることを忘れたの?」
「マナーが良いよね」
「深くは気にしない。お姉ちゃんは心配性なんだよ」
「そうだけど」
「いいから寝て」
「話し出したのは清花なのに」
 ああそれでも、眠くなってきたなと密紀は微笑んだ。
 マグを机に置き、布団に潜り込む。猫のように丸くなった彼女は、おやすみと小さな声で言うと目を閉じた。
 それを見届けると、清花は机へと向かったのだった。


………


「……」
「……」
 後日、清花が現れた赤井をジッと見る。赤井はその視線を受け流して、メニューを眺めている。互いに無言のまま、五分が経過した。
「コーヒーを頼む」
「かしこまりました」
 清花は注文を受けてその場から立ち去る。しかし、その背中に赤井は語りかけた。
「それとも紅茶にしようか」
「変更いたしますか?」
「やめておこう」
 愉快そうな赤井に、清花は無表情で注文票を握りしめる。
(ぜっったいに厄介なやつだ)
 悪霊退散と心の中で唱えながら、清花はベッドで寝込んでいる姉を想ったのだった。



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