夏至の日は晴れました
 
 夏至の日は私にとって少しだけ特別な日である。

 私、密紀は外に出た。今日は木曜日、定休日にして夏至である。
 近所の猫を見かけて、入道雲になりそうな雲を写真に撮って、街へ出る。一人で出掛けるなんてとんでもないと、私の体を知る人なら言うだろうが、母は笑って夕飯までには帰って来なさいと言ってくれた。

 夏至の日、私はいつもより長く大地を照らす日差しを目一杯浴びることにしている。日焼け止めは塗った。抜かりはない。
 ふらふらとウインドウショッピングをして、ジューススタンドでグレープフルーツジュースを買って、椅子で休憩する。
 木曜日は平日。さらに午後1時という微妙な時間なので、子供はほぼ居ない。集会でもあるのか、お婆さんが数人歩いていた。

 ぼんやりしているとジュースを飲み終わって、容器を捨てるかと席を立った。その時、何か変なものが目に入る。変、というより、見たことがある人影だ。
(か、風見さんだ〜!?)
 関わってはいけない。見つかってはいけない。記憶に残らないように行動すべし。
 三点を脳内でつらつらと連ねてから、私は店員に飲み終わった容器を引き渡して、自然な流れで回れ右をした。
(三本向こうの文具屋さんに行こう!!)
 こうして現場を後にした訳である。


 現在地、文具屋。栞を購入し、外に出ると声をかけられた。
「あれ、店員さんや!」
「こんにちは」
 偶然やなと、笑ったのは和葉ちゃんだった。天使か。
「今は店員ではないですよ」
「わ、そうやな。お姉さんは、えっと」
「名前を覚えてくださっているのですか?」
「もちろん! 密紀お姉さんやろ!」
 可愛すぎて全私が涙を流した。
「はい、正解です」
「密紀お姉さんは何しとるん?」
「栞を購入したんです。見てみますか?」
 がさりと袋を開く。和紙を使ったシンプルな栞は兎の模様が描かれていた。
「可愛い!」
「とても」
 そう話していると、しまったと和葉ちゃんは腕時計を見た。
「待ち合わせがあるんやった! 密紀お姉さん、またなー!」
「ええ、また」
 そうして立ち去った和葉ちゃんは後ろ姿まで可愛らしい。高校生って若いなあ。微笑ましくて心が温かくなる。

 夏至の日。私は明るい日差しを満喫する。晴れてよかった。そう思いながら、自販機で買ったミネラルウォーターを飲んだ。


 なお、遠くで何か叫び声がしたとか、爆発音とか、平日の昼間なのに子供が走ってたとか、夕方に見たネットニュースがやけに更新しされていたとか、そういう事は見なかった事にする。



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