濡れ鼠
 
 ばらばらと雨が降っている。
 窓を叩く雨はかなり強い。梅雨前線がどうのとニュースで言っていたので、梅雨入りしたのかもしれない。
「清花、傘立てを中に入れちゃって」
「分かった」
 お姉ちゃんの言葉に、傘立てを店内に入れるべく、外に出た。

 派手な音を立てて降る雨は、台風かもしれないと思った。風はないが、大雨だ。
 洪水とか怖いなと思っていると、ふと人が駆け込んで来る。たまにこういう客がいるなと思いながら、軒先の傘立てを仕舞いがてらその人を店内に入れた。

 濡れ鼠のような人はスーツを着ていた。これを使ってくださいとタオルを差し出すと、その人はありがとうございますと顔を上げた。思わず声が漏れる。
「あ、」
「はい?」
「いえ……」
 この人、高木刑事だ。やっと気がついて、驚く。ということは、近くにもう一人ぐらい濡れ鼠がいるのかもしれない。
 フェイスタオルをいくつか運んでくると、高木さんは扉の近くで唖然としていた。手の中には濡れたスマホがある。
「電話、使いますか?」
「すみません……」

 固定電話で連絡を取ったのだろう。数分後には車が店の前に止まった。
 今度はお茶を飲みに来ます。そう言って高木さんは出て行った。大変そうだねとお姉ちゃんが笑う。どうやら高木さんは怖くないらしい。
「米花だもんね」
「そうだねえ」
 じゃあ今日は店を閉めてしまおうと、お姉ちゃんはお父さんに言った。closeのプレートを掛けておいても、来る人は来る。そういうものだ。

 明日も雨みたいだからと、三女の智恵がてるてる坊主を作っていた。



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