風見+降谷+灰原/双子/夢の友人シリーズ7


 異国の歌がする。

 滑らかな旋律、異国の歌声。架空の言語で歌われるそれは、不可思議な魅力がつきまとう。
 日本という国に囚われないようで、日本という国に囚われた音楽。上司である降谷さんは、まあ個人の趣味ならいいんじゃないかと興味無さそうにしていたのを思い出した。

 場所は運動会の会場。多くの子供とその親族で溢れる空間で、困ったなと内心思う。降谷さんと少し離れたら迷子になってしまったのだ。
 適当に歩いていると体育館裏に出た。誰もいないことをいいことに、少し不安だなと思う場所を覗き込む。体育館裏、倉庫の影。そこから歌声が聴こえてきたのだ。
 そしてそれが架空言語だと分かった時、その歌を歌う子供に言い知れぬ不安を覚えた。歌っていたのは双子の女の子だった。お互いだけが分かる言葉で、静かに歌を歌い、小さなリコーダーで不可思議な音を奏でていた。
 学校で習ったばかりのリコーダーで旋律を奏で、幼い頃からお互いだけに通じる言葉で歌う。
 一般とか、多くの人々とか、そういうものから外れた少女達。静かに踵を返した。この場所までも放送は届く。熱心な教師はきっとこの場所を知っている。知らないと大騒ぎすれば、進言すれば良い。でも、静かな少女達の楽園を壊すべきではないと考えた。


 体育館裏から出ると、降谷さんが居たと駆け寄ってきた。
「何してるんだ、出番が終わったぞ」
「彼の競技が終わったのですね」
「そうだ。昼を食べに行こう」
「どこへですか」
「僕が選ぼう」
 そうして会場から出て行く降谷さんに続いた。


………


 白い部屋。静かにアッサムを淹れていると、少女がぺたりと椅子の背もたれに体を預けた。
「疲れたわ」
「此処まで疲労に影響されるのは珍しいな」
「ええ、現実の疲れを持ち越すなんて。というより、気疲れなの。実際に体力が削られたわけではないのよ」
「なるほど。それなら有り得る」
 マグカップを少女の前に置けば、ありがとうと受け取ってくれた。
「落ち着くわ」
「それは良かった」
「お茶菓子はビスケットね」
「食べやすいものにしたらしい」
 助かるわと少女は微笑み、大きなビスケットを一口食べる。小さな手が大人の手のひらもあるビスケットを掴む姿は微笑ましかった。



- ナノ -