風見+降谷(+灰原)/優しいお酒/夢の友人シリーズ4


 突風のようで、軽やかな。

 静かな少女との、静かな夢。お茶会はもう何度目だろうか。片手も両手ももう埋め尽くされただろう。
「貴方はきっと優しいのね」
「そうでもない」
 きみの方こそと言えば、少女は静かに笑みを浮かべた。
「貴方は優しいわ」
 決めつけられたのに、どうしてか嫌な気持ちはしなかった。


 目を覚ます。仮眠室だった。
 眼鏡を手繰り寄せ、装備する。上半身を上げて、軽くストレッチをして、立ち上がった。
 仮眠室を出ると同僚がヨッと手を挙げた。仕事の話をしていると携帯が鳴る。降谷さんだと直感し、同僚と離れて通話をした。連絡事項をいくつか聞き、通話を切ろうとすると、待てと止められた。
「どうされましたか?」
『今晩、近くの、バーに行けるか』
「バーですか?」
 調査か何かだろうかと思っていると、降谷さんは素早く店名を告げて切ってしまった。知らない店名だったので、すぐに調べる。どうやらビルの地下にある、老舗らしかった。

 仕事をなんとか区切りの良いところまで進めて、街に出る。時間は指定されなかったが、夜も中頃の時間にした。というか、その時間まで離れられなかったのだ。
 言い訳を考えながらビルの地下に向かう。とろりと柔らかな光に満ちる店内にはカウンター席のみ。満席だなと思っていると、女性が一人立ち、席が空いた。
 そこに向かうと隣に降谷さんがいた。
「彼に何か」
 降谷さんが店員に言うと、店員は頷いて酒を作り始めた。
 カクテルでも作っているのかと思っていると、そっと降谷さんがこちらを見た。
 覚めるような目が、飴色の光で柔らかく見えた。
「どうされましたか」
「別に」
 酒が目の前に出された。青い色をしたカクテルに少し警戒したが、降谷さんが居るならと口をつけた。
「ここは前に一度来たことがある」
「そうなんですか」
「随分前だ」
 降谷さんの前にも酒があった。しかし酔っているようには見えない。強いのだろうなと思った。こちらも飲めないわけではないが、あまり長居はしないでおこうと思った。昔話など、普段はしないからだ。
「賑やかだったよ」
「そうですか」
 酒を飲む。悪い味はしなかった。
「明日は休みだ」
「ゆっくり休んでください」
「お前もだろ」
「用事があるので」
「どこに行くんだ」
「下見です」
「成る程」
 それは早く帰さないとな。降谷さんは笑みを浮かべた。少し調子が戻って来たらしい。いいことだと思いながら、酒を飲んだ。一口は少なくした。酔うわけにはいかないと思ったのだ。

 結局、先に降谷さんが店を出て行った。私は残された料金らしきものを確認してから、店員に合図をして席を立った。料金は充分ですとマスターらしき人物が出て来た。むしろ多いくらいだと、マスターは私にお土産をくれた。レモンを一つ、丁度これぐらいを貰いすぎているよと笑われた。

 自宅に帰り、ベッドに寝転がった。風呂に入らなければいけないのに、少しだけ眠たかった。
(昔話か)
 降谷さん、貴方のその昔の人達は優しかったですか。そう問いかけながら、ゆっくりと眠りへと落ちて行った。


 真昼間のお茶会。いつもの少女はこちらに気がつくと、笑みを浮かべて今日は楽しそうねと囁いた。



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