風見+降谷/林檎/夢の友人シリーズ3


 綺麗な林檎がありまして。

 艶のある林檎が目の前にあった。部下曰く、実家から大量に送られてきたものの一部らしい。3個ならと言えば、せめて5個と押し付けられ、ため息一つで消費に協力することを約束した。そんな訳で、林檎を手にして久しぶりに自宅に帰った。
 換気や掃除をしてからキッチンで林檎を剥く。全部をそのまま食べるのは厳しいだろう。ジャムとケーキを作っていると、ガチャガチャと玄関扉が開いた。
「風見何してるんだ」
「休日です」
「何してるんだ」
 いや貴方絶対知ってるでしょうと思いながら、ムッとしている降谷さんに手洗いうがいを勧めた。

 降谷さんは安室透としての仕事の帰りに寄ったらしい。珍しく明かりがついていたからと、降谷さんは林檎をサクサクと食べた。その間にジャムとケーキの作業を進める。
 夢の友人ならジャムを喜んでくれるだろう。あの子は林檎のケーキは好きだろうか。大きめに切った林檎を敷き詰めたケーキ生地を、電気オーブンに入れた。

 ジャムを煮詰めていると降谷さんが手を止めてこちらを見た。ジッと見られて居心地が悪い。何なんだこの人と思いながら、適当なところで煮詰めるのをやめる。柔らかく、とろみもつけていないジャムは数日以内に食べた方がいいだろう。砂糖を沢山入れたので当分は腐らないだろうが。
 空き瓶を熱湯消毒して熱いジャムを入れて蓋をする。ついでに逆さまにし、息を吐いた。
「手慣れているな」
 降谷さんがしげしげとジャム瓶を見た。
「消費しなければならない時があっただけです」
 そうかと降谷さんは言った。そしてその指先でジャム瓶に触れようとするので、熱いですよとその手を止めた。手と手が触れる。
「あつい」
「さっきまで火を扱っていたので」
 そりゃそうでしょうと呆れれば、降谷さんはまるでネコ科の動物のように、しなやかに手を撫でた。
「そのジャム、僕にもくれるか?」
 ジャムサンドを作って配ろうと思っていたくらいなので、それぐらい構いませんと告げれば、彼はゆるゆると笑って指先を絡めた。



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