光の園/風見+灰原/ネタ本は『美しい建築の写真集・喫茶編』/作業用BGMはノルニル(やくしまるえつこ)/テーマはステンドグラス


 カラフルな光が床に落ちる。

 古い教会を改装した喫茶店。ステンドグラスは当時のままなのですよと、店員が教えてくれた。
 赤、青、黄色。ステンドグラスの光は中央の廊下に落ちている。落ちる迄に光は僅かに混ざり合い、ガラスの色数よりも豊かな色彩を、艶やかな木目の床に広げていた。明るい太陽光に寄り添ってテーブルを照らすのは橙色のランプだ。
 まだ午前中の時間帯。入店した風見は白いクロスがかけられたテーブルに案内された。そこは店内で一番奥の席、座っていた少女が風見を見た。
「遅かったわね」
「トラブルがあったので」
 少女、灰原は風見が座ったのを確認してから店員に目で合図をする。畏まりましたと、若い店員は下がった。
「喫茶というかレストランのような気がする」
「食事よりドリンクメニューが中心みたいよ」
「そうなのか……」
 風見はきょろりとテーブルを見た。そしてメニューも何もないなと首を傾げるので、灰原は笑う。
「頼んでおいたわ」
「え?」
「サプライズだもの」
 灰原がくつくつと笑うと、初老の店員が二人のテーブルにグラスを置いた。

 僅かに結露したグラス、透明な氷。どこか色を帯びたアイスコーヒーが二つ。続けて並んだのはアップルパイとシフォンケーキ。生クリームがたっぷりかけられたシフォンケーキは、風見の前に置かれていた。
「サプライズ?」
「ええ」
 そういえば他の客がやけに遠かった。
「予約しておいたの」
 店の奥から登場したのは、ケーキのワゴンだった。

 断じて、甘党というわけではない。その筈だと風見は認識しているが、彼はケーキワゴンで見せてもらった菓子のうち、二つを新たに頼み、ぺろりと平らげた。最初のシフォンケーキ、次は柑橘類のタルト、最後はチョコレートケーキだ。なお、その間の灰原は、アップルパイをつつきながらコーヒーを飲んでいた。

「美味しかったかしら」
「とても」
 風見は少し気恥ずかしそうにしながら会計を済ませる。想像したより遥かに懐が痛まない。完全予約制、会員制の喫茶店なんて初めて来たぞと、風見は素直に灰原の情報に感嘆した。そして、どこで知ったのだろうと頭を傾ける。店名すら分からないそこは、隠れ処という言葉が相応しい場所だった。
「また来ましょう」
「ありがとう」
「どう致しまして」
 店の外に出た灰原が太陽の下で振り返る。風見は目を細めて、眩しいなと呟いた。



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