風見中心/隠れ鬼3/夢の友人シリーズ12


 朝6時。風見が起きると、ドンドンと音がした。
 急いで正面玄関に向かうと、そこにはコナンと安室がいる。
「歩美ちゃんが居ない!」
「なんですって?!」
 安室の言葉に風見は目を見開いた。

 ロビーの机に三人で集まる。風見はコナンに渡した二枚の地図と同じものを、机に広げた。
「皆さんの様子は?」
「ついさっき、朝6時。起きた和葉さんが二段ベッドの一段目に歩美ちゃんが居ない事を確認。慌てて2号館の女性陣が部屋中探すも見当たらない。騒ぎに気がついた3号館と5号館の男性陣も起きた」
「現在は和葉姉ちゃんを服部が落ち着かせつつ、高校生組で元太と光彦と灰原を抑えてるよ。他は捜索中」
「どこを確認しましたか」
「鍵のないところは全て調べた」
「なるほど」
 風見は赤いペンでトンと指した。
「コテージ1号館、4号館。本館。観測所は探してないのですね」

 バタバタとした騒ぎにムネさんが起きてきた。彼は慌てて風見に駆け寄る。
「何事ですか!?」
「それが……」
 風見が説明しようとすると、正面玄関からキヨコが駆け込んでくる。
「さっき細い目のにいさんに聞いたけど、子供が一人消えたって?!」
「そんな!」
 風見が声をかける間も無く、キヨコさんは顔を青くする。
「まさか隠れ鬼が、でも、そんなわけが」
「キヨコさんは隠れ鬼を知っているの?」
「え、ああ、この辺りのジジババなら知ってるよ。天狗伝説と似たようなものだね。夜に子供を攫うんだ。だけど、言い伝えなだけで……」
「子供が実際にいなくなってるんですよ! 今はそんな話をしてる場合じゃない!」
「分かってるよ!」
「二人とも落ち着いてください」
 風見がムネさんとキヨコさんを落ち着かせている間に、コナンと安室は地図を見つめた。

「ごめんね、取り乱した。まだ探していない場所があるだろう。どこだい?」
「鍵のかかっているところは……」
「それならコテージの鍵を開けよう。私でもできる」
「本館は僕が」
「ムネさんは昴さんと回って。キヨコさんは皆と行動しよう」
「一人は危険だということだね、分かったよ」
 コナンが昴を呼ぶと、ムネさんと昴は本館内を捜索し始めた。

 キヨコさんが職員室の鍵置き場から鍵を持ち出して、コテージを開けに行く。それを横目に、コナンは風見に近寄った。
「ねえ、観測所は開かないの?」
「あそこはサネさん……所長が鍵を持ち歩いているんだよ」
 物置みたいな場所だと、風見は言った。

 本館から近い4号館を開くも姿はなく、次に1号館を開く。すると扉を開くキヨコのすぐ後ろにいた和葉が声を上げた。
「歩美ちゃん!!」
 飛び込み、駆け寄る。続いた平次が、白いタオルケットの中で寝ている歩美に声をかけた。
 何度目かの呼びかけの後、歩美は目を開いた。
「……和葉お姉ちゃん?」
「ああ、よかった、起きた、無事で、本当によかった……」
 和葉が歩美を抱きしめる。しかし、平次は喜ぶばかりではないと呟く。
「鍵のかかった小屋」
 その場の誰もが息を飲んだ。小屋は密室などと言う程ではない。歩美が起きてさえいれば一人で脱出できるような、鍵を内側から開ける部屋だ。だが、歩美は寝ていた。恐らく、起こさなければもっと長く寝ていただろう。

 何者かが歩美を眠らせ、小屋に寝かせたことは確かだった。


………


「警察には連絡しないィ?!」
「すみません、サネさんがどうしてもと」
「電話を貸せ!!」
 ムネさんのスマホを小五郎は奪うように受け取って、通話の相手、所長のサネさんを説得し始めた。
 ムネさんが不安そうにしているので、風見が声をかける。
「サネさんは何と?」
「それが、警察には連絡しない。騒ぎしないと頑なで」
 風見は眉を寄せた。子供が誘拐された。無事見つけ出したが、そういう問題ではないのだ。
 小五郎はスマホから耳を離す。ダメだと頭を振った。
「サネさんとやらは頑固ジジイだ」
「普段は穏やかな方なのですが」
 風見がそうフォローすると、本館にシゲさんが出勤してきた。
「あれ、どうしたんです?」
「子供が拐われて、さっき見つけ出したところだ」
「ええっ!」
 小五郎の言葉にシゲさんは驚く。時間は朝の8時。シゲさんに安室が説明している間に、イズミさんも出勤した。

「とりあえず、一人で行動しないように、としか」
「警察への連絡はどうするんですか?」
「サネさんが折れ次第だな。皆さんはとにかく一人で行動しない、動くときは誰かに伝えておくことを徹底してください」
「あの、女性や子供は狙われやすいんじゃないですかね?」
 イズミさんの言葉に、小五郎は頷く。自然と、歩美、灰原、園子に周囲の目が向けられた。武道を身につけているわけではない三人は、何も知らない人から見れば特に弱い女性だ。もちろん、イズミさんやキヨコさん、蘭と和葉にも視線は向けられる。
「ったくこんな事が起きるなんてね。とりあえず腹が減ってはなんとやらだ。ご飯を食べよう。作るよ」
 キヨコさんが朝食を作りに向かった。朝食は事前に予約してあったのだ。

 不安げな雰囲気を子供たちが無理矢理明るくする。今日は何して遊ぼうか。彼らの話題はそこへと落ち着いた。



- ナノ -