あなたと出会った幸福と、あなたと離れた不幸を願う。//掌編


「きみはさ、後悔しないのかい」
「どうして?」
 きみはさっぱり分からないと小首を傾げた。そんなきみの指には指輪があって、電飾の明かりを受けて、きらきらと輝いていた。どんな宝石よりも美しいような気がする。そうぼやけば、そんなことはないよと笑われた。
「ただのガラス玉が宝石よりも美しいなんて、有り得ないわ」
「ガラス玉の方が宝石より輝くんだよ」
「へえ、知らなかったわ」
 ぴいちくぱあちく。きみはぺらぺらも語る。
「あなたの指にも何か付けたらいいじゃない」
「残念だけど、相手がいないんだ」
「あら、そうは思わないわ。あなた、存外見た目がいいのに」
 変なの。きみは笑う。ぼくはそれが心からの言葉だと知っている。だから、きみのようには笑えなかった。ただ、寂しいような、侘しいような顔をした。
「まあ、そんな顔では巡る運も巡らなくてよ」
 顔を上げなさい。背の高いきみが言う。くいと顔を上げれば、案外近くにきみの顔があった。
「そんな顔をするのなら、今すぐ魔法をかけてあげましょう」
 素敵な魔法よ、きっとね。きみはそう言って、ぼくの頬を軽く撫でたのだった。

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