『シプレ』
!一次創作!
!近親恋愛!
!百合/男女CP!
!不穏なメリバにしか見えないですが筆者はそこそこハッピーエンドのつもりでした!
!ヤンデレの雰囲気もあります!
!昼ドラの雰囲気もあります!
登場人物→私(主人公)/兄/姉/兄の彼女
年齢設定→私と兄が8歳差/私と姉が6歳差/兄と姉が2歳差/兄と兄の彼女は同級生
CP等→妹×姉(メイン)/兄×兄の彼女/兄の彼女→姉/兄+姉(健全なるきょうだい)/兄+妹(健全なるきょうだい)
タイトル補足→香水のシプレ系からとりました


 あまりにうつくしいひとでした。

 私には兄と姉がいる。私とは年の離れた兄と姉は、いつも一緒に行動していた。今は兄は20歳、姉は18歳、私は12歳だ。
 兄と姉は私をよく可愛がってくれた。8歳、6歳も違えば小学校ですら同じ時期に通うことはない。同じ学校に通う兄と姉が羨ましく、登下校の時間はいつも拗ねていた。何より、私に内緒で私の誕生日プレゼントを見繕ったりする二人の仲の良さが羨ましかった。
 やがて兄は家族に彼女を紹介した。両親は驚いて祝福した。私も驚いた。姉は唯一、先に彼女を紹介されていたらしく、両親や私と兄の彼女との仲を取り持った。
 兄の彼女は可憐な女性だった。姉は私から見て普通の女性だったので、白くてふわふわした可憐な彼女はいくら同じ女の性別を持つと言えど、ただの普通の小学生の私には、少し照れくさかった。

 兄の彼女と姉は仲が良好らしかった。ある日、三姉妹でお茶でもと兄も両親も不在の家の居間で紅茶を飲んだ。その紅茶は姉が自らキッチンに立ち、時間と手間をかけて淹れたものだった。
 姉がキッチンで紅茶を淹れている間、私は彼女に姉はどんな人かと聞いた。兄の話はあまりしない方がいい気がした。身内の惚気は気まずいと思ったのだ。
 今日も白く可憐な兄の彼女は可愛らしく微笑むと、キッチンに聞こえぬように姉のことを教えてくれた。
「あの人はとても良い人、素敵な女性ですよ」
 素敵な女性。姉がそんな評価を受けているとは思わず、私は驚いて目を開いた。姉は確かに、暴力も怒鳴ることもしない。私や兄と喧嘩することもない。いつも穏やかに私の話を聞いてくれる人だ。ああいう人を素敵な女性というのかと、私はとても驚いた。
 そうしてキッチンから戻ってきた姉がテーブルに紅茶やお茶菓子を並べるのを、私はじっと見つめた。よく見たら姉は兄の彼女のように白い肌をしていた。父に似た姉は黒い髪をショートカットにし、艶々とした黒い目をしている。その髪は私と同じシャンプーを使っているのに室内灯の下で控えめに輝いていた。姉の部屋着はいつものグレーのロングカーディガンと、白いシャツ、ベージュのスキニーだった。兄の彼女がある意味、女性らしい女性というなら、姉はどこか中性的な人に見えた。こうして見ると、兄の彼女と姉は正反対の女性にも見えた。女性的と中性的。私はこの二人のどちらかに似た女性になるのだろう。中学生となった私は少しばかり胸が高鳴った。

 きょうだいとは様々で、世の中には仲の悪いきょうだいもいるらしい。私は中学で仲良くなった友人からその話を聞いて驚いた。私の当たり前の兄と姉は、私にとても優しかったからだ。喧嘩も暴力も、一つも経験したことがなかった。愛されていたんだ、私はじわりと優しい気持ちが胸に広がるのを感じた。

 大学生の姉は多くの講義を受けているらしい。私は入学したばかりの中学校の試験に忙しく、会話が前より減って寂しかった。それでも姉は私や両親との時間を大切にしてくれた。兄もまたそうしてくれたし、私はいつの間にか兄の彼女とスマホでメッセージを送り合う仲になった。
 兄の彼女は一人っ子らしい。何通かのやり取りの後、試験のコツを聞くために初めて電話をした時、あんなに優しいお姉さんの近くにいるのが羨ましいですと小さな内緒話のように言われたのが頭に残った。

 私は兄と姉から勉強を教わることはなかった。平均的な成績をおさめていたし、兄はよく外に連れ出してくれたし、姉は私によく本を読んでくれた。外出は兄担当、室内は姉担当という調子だった。そう、兄と姉は私に勉強を教えることを避けていた。
 ただ、兄も姉も様々なことを教えてくれた。学校の勉強ではない、遊びを教えてくれたのだ。車でしか行けない場所にある野原で駆け回って虫を捕まえて飛び回り、家の中では少し難しい本を交代で読んでは分からなかったところや面白かったところを笑ったり泣いたりしながら話したものだ。
 私が中学生になった今でも、予定さえ合えば二人は私と遊んでくれた。

 中学の試験がひと段落したある日、さて今日は姉と読書をする約束だったとベッドから起き上がって着替えを済ませた。
 朝ごはんを食べると、姉が読み終わった本を貸してくれた。部屋に戻り、黙々と読む。付箋を貼り、メモをする。こうすると後で話す時に残らず話題に出せるからだ。
 久しぶりの、のんびりとした時間。夜にお茶と本を片手に姉と話すことを楽しみにしていると、お昼は過ぎ、もう夕方になっていた。ちなみに食事はちゃんと食べた。

 もう少しと思って本に視線を戻すと、隣部屋の姉がとても珍しく音を立てて扉を開いた。何事かと部屋を飛び出せば、姉は足早に一階へと降り、玄関へと走った。私に気がつかない姉の様子に少しばかりやきもきしつつ、しかし慌てている様子に声をかけることもできずに玄関近くの階段で様子を伺った。
 姉が玄関を開くと、雨が降る外に兄の彼女が立っていた。今日は土曜日、朝から振り続いた雨だというのに、兄の彼女は傘を持たずに濡れていた。
 姉が柔らかな落ち着いた声で彼女に話しかけた。玄関の土間に入った彼女は俯いて、震えていた。姉はそっと彼女を両腕で、壊れ物を扱うように抱きしめた。抱きしめるというより、ふわりと包み込んでいた。決して強い力は入っていなかった。
「話はさっき聞いたよ。大丈夫、あの人は少し女心が分からないことがあるだけ」
 デート先で兄と喧嘩したのだと分かった。しかしそれよりも、姉の聞いたこともない柔らかな声に驚いた。どこか甘さすら含むような、だけど母性も感じるような、実の姉なのにどこか神秘的な声色に聞こえた。そう、聞いたことも信じたこともないけれど、姉が昔読んでくれた本に出てきた女神様のような声だと思った。
 思わず姉達に駆け寄ろうと階段から飛び出した。先ほど伺っていた時とは違い、堂々と二人の姿を見た私は、驚いた。兄の彼女は白くてふわふわした服をすっかり濡らして、きっと朝にセットしたのであろう髪は波を描きながらも全て下ろしていた。
「ヘアゴムはどうしたの?」
「何だか、バス停を降りた時に、馬鹿らしくなってしまったんです」
「馬鹿らしく?」
「はい。いつもと少し違うヘアゴムとイヤリングをつけてみたんです。そのことにずっと気がついてくれなくて、私、帰りがけに思わず苛立ってしまって、怒鳴ってしまって、私、そんなことをするつもりは無かったのに……」
「そっか。イヤリングも失くしてしまったのね。ねえさん、これは少し無神経なところがある話だけれど、月の物が近いとも教えてくれたよね。そういう人は人によってだが、些細なことが苛立ちになることがある」
「でも生理はまだ……」
「近いとそういうことがあるのよ。安心していい。あなたは変になったわけではない、正常なんだよ」
「本当に?」
「ええもちろん。個人差があるのは当然だけどね。さあ、兄とまだ顔を合わせ辛いでしょう。私の部屋においで。兄が帰るまではそこにいてほしい。貴女は一度気分を良くするために、落ち着いて温かいミルクティーでも飲もう。そうしてじきに帰ってくる兄にも話をしなくてはね」
 姉はいつになく多弁だった。そして、慈悲深い女神様のような腕を離した。
 私に気がついた姉はなんとも言えない顔で紅茶を淹れてもらえるかなとお願いしてくれた。しっとりとした湿気が混入した土間で、兄の彼女から離れて、黒い髪を揺らして、黒い目の存外長いまつげを控えめに私へと向けていた。
 その姿に、私は見惚れた。私はこのような女性になりたいのかと思った。しかしこような女性とはなんだろう。姉ということ、優しいということだろうか、そうかつまり。姉のような、優しい女性になりたいのか。嗚呼でも違う。私は、そう、例えるならば、この女性の隣に並びたいんだ。
 そう思った時、何かが心の内側でことりと転がって。静かに気がつく。

 兄の彼女は姉の部屋に連れて行かれた。
 私は急いでキッチンに入り、マグカップ三杯分のお湯をヤカンで沸かす。その間にお茶菓子を探してお菓子棚を探り、見つけたチョコレートを小さな器にいく粒か置いた。マグカップにはティーパックを先に入れておく。ふとマグカップを温めたほうが良いのではないかと気がついて、私は慌ててティーパックを取り出してポットのお湯でマグカップを温めた。この手順を姉はティーカップで行う。だからきっと必要なのだと思った。
 用意を揃えて姉の部屋をノックする。すぐにどうぞと姉の声がした。兄の彼女は落ち着きを取り戻したらしく、姉の部屋着を着て恥ずかしそうにしていた。
「あまりこういう、体型の分かりやすいスラリとした服は着なくて、恥ずかしいです」
「私の服でごめんなさい。でも、きっと、喧嘩をしているなら気が立つでしょう。その時の為に香りをつけたらどうかしら」
「え、香り、ですか?」
「ええ、幸いいくつかあるの。選んでくるわ」
 姉は立ち上がり、いつも並んでいるガラス戸の向こうの小さな香水瓶達とそのラベルを確認した。
 そして二つの香水瓶を持ってきた。姉は慣れた様子でハンカチを二枚出し、それぞれにそれぞれの香水を、離れた位置で吹きかけた。
「どちらの香りの方が、ねえさんは安心する?」
「安心?」
「ええ。少しでも平静を保っていられるようにと思ってね。兄はこの二つの香水を知っているから、香りでややこしいことにはならないわ」
「それは」
 兄の彼女は言い淀んだ。二つのハンカチは見ずに、姉を見つめた。
「貴女の、いつもの香水が良いです」
「私の?」
「はい。貴女の香水の香りはいつも清廉で、澄み渡っているような、それでいてほんのりと甘い花の香りがします。たまに隣に座った時にあの香りが貴女から香る時は、リラックスができるんです」
「そっか。それなら持ってくるよ」
 姉はガラス戸の中、奥にも並んでいた香水瓶のうち、少しだけ大きめの香水瓶を取った。
「試しにハンカチにかけてみたのがこれね」
「はい、そうこれが好きです、私……」
「それなら手首をこちらに。はいできた。両手首を擦り合わせて少し温めて。そう、上手。辛くなったらその手首で匂いを嗅ぐといいよ」
 兄の彼女は手首の香りで嬉しそうに笑った。今日初めて見た彼女の笑み。
 でも、その手首につけた香水は姉が本来なら外出する時にのみ使う香水だった。なるほど、外出用の香水ならば姉と仲の良い兄はよく香りを知っている。室内用、それも部屋でしか付けない先ほどの二本は香水は、恐らく兄も彼女も知らない香水だ。知らない香水ならば彼女は嫌がる。いつもの香水ならば兄は誤解することもなく、姉が彼女を安心させたかったという話を受け入れるだろう。

 誰かの口から決定的な言葉が出ることを待ちながら、私は姉の手が密かに震えているのを見た。

 兄と兄の彼女の喧嘩の和解の為の席には、兄の彼女が情緒不安定であるからと姉が同席した。姉はいつもの穏やかな声ではなく、真剣に兄と姉の仲を持ち、この先の生活も、ほんの少しずつ話し合うべきだと助言した。
「私は兄さんとねえさんの二人でこそ幸せになってほしいの」
 強い意志を持つ声が居間の扉越しに聞こえた。また、聞いたこともない姉の声だった。そして、とたんに啜り泣くような声が聞こえた。兄が慌てて声をかけた。兄の彼女は震える声で、未来を考えられるのが嬉しくてと嗚咽混じりに言った。兄はそうかと穏やかに、幸せそうに言った。姉は、何も言わなかった。きっと扉越しの私にさえ伝わる熱に気がついたのだろう。兄の彼女の声は震えて、震えて、あまりに苦しい。必死に耐えてそれでも漏れ出た叫び声のようだった。

兄の彼女は、姉が好きだったんだ。
だから、姉の女神様のような優しさと、姉の強い願いの為に、兄の嫁となる決意をしたのだと、幸せにならなくてはならないと誓ったのだと分かった。
そう、兄の彼女はきっと、兄より姉が好きだったんだ。

鈍感な兄の誤解を、姉は避けたんだ。
兄の彼女の恋情を、姉は避けたんだ。


………


 あれからしばらく経ち、私は16歳の高校1年生になった。
 同棲をしている兄の彼女は一人で家に遊びにくることは無く、必ず兄と一緒だった。同棲しているマンションは、仕事の関係でなかなか気軽に家には行き来できない距離になった。盆や正月といった時にのみやって来ては、両親、特に母に料理を教わっていた。姉には笑いながら話しかけ、共通の話題である兄の話をしていた。

 そして盆休みの数日後、懺悔をさせてほしいのと、メッセージが送られてきた。


………


 約束の日、高校を飛び出して公園に来ていた。時間はまだ5時。美術部を早めに上がらせてもらったのだ。
 まだ兄の彼女は居ないかもしれないと思ったが、約束よりも早いこの時間にもう兄の彼女は来ていた。

「ほんとうにすてきだと思ったのです」
「一目見て、その両目が私の目を捉えてくれた時、私は言い知れぬ歓喜に沸きました。ただその時は素敵な人だからだと思いました。私にない、中性的な美しさを持つあの人に憧れたのだと」
「けれど、メッセージを交わすうち、その丁寧な返信に穏やかで優しい人だと知ったのです。送れば必ず返ってくる返信は、あまりに心地よくて、安心しました。いつでも会いに行ける距離だったから、一人で会いに行こう、そうだお茶でもと思ったのです」
「お茶会はあまりに楽しい時間でした。席順はコロコロ変わったから、隣の席にあの人が毎回座ってくれるわけではなかった。でも、隣に座ってくれた時に胸が高鳴り、出会った時と全く同じ香りがしました。そしてまたあの人が私を見たのです。あの美しい黒の目に優しい光を灯して、あまりに、私は……」
「恋に落ちていたことを自覚したのです」

 懺悔はそこで終わった。予想はしていた。確信までもがあったようなものだ。そうでなければ私はおそらく今、平静では居られなかった。
 軽蔑と、仄暗い喜びと、私は。
「ねえさん」
 私は、姉に似ているとよく言われる私の声で話しかけた。
「ねえさん、あの香水はね、外でしか付けないの」
 兄の彼女である白い女性はしばらく動きを止め、やがて目を見開き、ゆっくりと俯きかけ、耐えられないように崩れ落ちた。
 地面に座る姿を見て、私は一昨日、プロポーズの喝を姉と私に入れてもらいたいと兄から電話がかかってきたのを思い出した。
 嗚呼、彼女は兄の妻になることにしたのか。


 一人で家に帰った。姉がぱたぱたとお帰りなさいと出迎えてくれた。大学4年生の姉、高校1年生の妹が私。
「お姉ちゃん、今日の香水はとても爽やかだね」
「ああうん、これは男性物だからね外では付けないようにしているんだ」
「女性物にはしなかったの?」
「じゃあ明日は女性物にしようかな。にしても、毎日顔を合わせているのに今更だ」
 クスクスと姉は笑っていた。そして、痛ましそうに目を伏せた。私がさっきまで誰と会っていたか知っているからだろう。

「あの人には本当に酷いことをしてしまった。まさか、そんなことになるとは思わなくて」
「初対面の時の目で気がついたの。大きな目があんまりにも羨望と、焦がれる恋を語っていたから」
「まさか一目惚れされるなんて、しかも彼氏の居る女性にそんな目で見られるなんて思わなかったの」
「私、兄に幸せになってほしかった。純粋に、大切な兄が幸せな家庭を築くのを応援したかった」
「初対面の日、待ち合わせ場所に着くまではずっと彼女と仲良くなりたいと思ってたの。だって、協力するなら信頼関係がないといけないから」
「それだからそんな、私になんで、あんな目を向けたのか、本当に怖くて」
「企みはすぐ分かったの。兄はね、本当は鈍感なわけじゃない。むしろとても器用で、賢い人なの。何より、兄は本当に私を大切な妹だと思ってくれる家族だから、彼女と初めて会った日の夜に私が怖がっていることを見抜いて、全部吐き出させてくれて、兄として受け止めてくれた」
「兄が気がついてくれた企みの日、最後のあの雨の日。私は彼女の企みを知りながら部屋に招き入れて、私はこの時の為に会った日から必ず付けるようにしていた香水を彼女に吹きかけて、だから私は兄と彼女にあのように言ったの」
「彼女の恋愛感情を殺すために」

 姉は終いには泣いていた。優しく熱い涙をぼろぼろと零していた。そう、これは姉の懺悔だったのだ。あまりにも、あまりにも苦しいと訴えていた。
 企みの日、その企みはきっと、兄を手放し、姉を手に入れようとする企みだったのだろう。姉にとっては最後の日であることに間違いなかった。あの日の風呂の後から、姉は香水をかつてのように自由に纏い、女が帰るまで着けていた香水は一度も纏うことがなかった。おそらく、すぐに捨てたのだろう。
 だから私はそっと姉の背中を撫でた。姉の懺悔は続いた。

「私はどうして好かれて何てしまったのだろう。私は幸せになってほしくて、その日は服装にも気をつけた。お化粧もいつもより少しだけ頑張った。兄の幸せの為に、そして兄の未来のお嫁さんの為に。二人の幸せを願っての行動だったのに」
「それがだめだった」
「ああ、死んでしまいたい程に苦しい。とても苦しい。ごめんね、お姉ちゃんなのにこんな姿を見せてごめんなさい。でもどうか、もう兄には頼れないから、どうか、今だけは……」

 懺悔は後悔となった。でも私はその後悔にそっと触れるように、声をかけた。
「お姉ちゃん、大丈夫。お姉ちゃんはとびきり美しい人だよ。だからお姉ちゃんらしく生きていればいいの」
 私はそっと姉から離れた。指先同士を安心させるように触れさせた。
 姉の顔は目元が赤く、涙で目が潤んでいた。不思議と綺麗な泣き顔だった。
 ずっとずっと耐えた姉。怖くて怖くて仕方がないのに、兄の幸せの為にと女を不幸にした姉。そして、引きこもりがちな私と姉へ、懲りずに外を見せてくれたあの兄が本当は誰を選ぶかなんて、何一つ気がついていない姉。
「ああ、本当にお姉ちゃんは」

 あまりにうつくしいひとね。

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