『こいもの』

左手の愛を
右手のひらで受け止めて
心臓の鼓動を
はらのそこで受け止めて

雨粒程に不器用で
夢を見がちなわたくしを
その目ではっしと捉えまして
きみは春だと笑うのです


・・・


『完全』

臓物よりも
人物よりも
事物よりも
取柄よりも
この世の何ひとつも欠けていない
そう自負するは
あなたの色音


・・・

『大衆の桜』

いみじかしことだ
うらめしいことだ
空ぞらしいことだ
うめの様なことだ
鋭い嘴に啄まれて
憐れなあの花めは
ちいさくちいさく
萼を落としたのだ


・・・

『自己嫌悪』

ささやかなる嫌悪と
甘ったるいさよなら
人は皆幸福であれと
言うけれど、空白は
何よりも恐ろしくて
嗚呼、之曇天の心地
四方よりも恐ろしき
アイは雨となりして
我が身に降り注がん

・・・

『肯定』

エニシを求めて
引き止められて
馬鹿だなあなんて笑ったの
私はそう、いつも影にいる
あなたがいくら否定しても
私はあなたの影にいて、
じいとみつめて笑わない
あなたがいくら笑っても
私だけは笑わない
あなたのプライドと
あなたの空虚な弱さを
私だけは笑わない

・・・

『不安定』

ひとりごと、さみしこと、うれいはここに
あなたはみたの、わたくしのこと
れんめい、まる。つながってたのね、わたくしは
うれしいわ、なによりも、
のけものには、しないでね

・・・

『カーテン』

ああ、夕立ちの
ひしめく影の、向こう側
きみがいる

いと惜しくって
手を伸ばしたのに、届かない

ああ、夕立ちは
いつも僕らを遮って
さよならすら、言わせてくれない

・・・

『魂の牢獄』

ひとにぎりの愛と
ひとさじ分の恋と
甘く柔らかな吐息
季節は夏となりし
かくも愉快な事也
延命すら無意味と
花の様なかんばせ
また君は遠く遠く
延々と巡る季節の
牢獄の中で静かに
深く深く眠るのだ



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