07:その当時はラスト一振だった/鶴丸鍛刀成功


【審神者視点】


 これは、夏継本丸に鶴丸国永がやって来た時の話。

 今日も今日とて鍛刀である。
 近侍は薬研君。推しの獅子王君は好きすぎて近侍に指名できないでいる。なお、薬研君を近侍にするのは私への戒めである。
 さて、鍛刀である。薬研君は内番服で早く鍛刀しちまうかと笑っていた。薬研君も本当に素敵な人だと思いながら、そうだねと資材を指定していく。
 私の鍛刀運は悪くはない。今も後ろで笑ってる三日月さんを初日に引き当てたり、江雪さんもわりと早く来た。槍も脇差もレシピを調べてから回したら、わりと早く揃った。レア短刀の平野君と厚君も、わりと早く来てくれた。
 巷でよく出ないと言われるレア4で言うと、先述通り、江雪さんは鍛刀だった。一方で、一期さんと鶯丸さんは鍛刀ではなくドロップだ。でも、まあ、来たわけである。
 ここで察してもらえると思うが、私の本丸には、恒常鍛刀可能の刀剣男子で唯一、鶴丸国永がいない。

「薬研君、鶴丸さんって何時間?」
「確か3時間と20分じゃなかったか」
「4時間が出た……」
「また三日月のじーさんか」
「はっはっは、よきかな」
「三日月さんはもう顕現させないからね?!刀で保存だから!」
「大将、手伝い札を使わないと枠が空かないぜ?」
「とりあえずこの4時間をどうにかする」
 そうして現れた三日月宗近(刀)を彼専用と化した物置に置く。さて、今日はもうレアが出たので鍛刀はやめようか、否、もう少し。
 ここで、深追いは厳禁だよと、初期刀の加州君に言われたのを思い出した。最近はドロップに力を入れていたので回してない分、札も多い。まあいっかと頭の中の加州君の忠告を無視してラスト一回と鍛刀を指定した。
「……ん?」
「おお」
 薬研君と並んで見る画面には、3時間20分。まさかと思いながら札を使うと、現れたのは真っ白な着物。

「よっ俺は」
「うわああああ」
「鶴丸国永だ」
「うわああああ本物だー!」
「おい、挨拶ぐらいさせてくれ」
「三日月さん!薬研君!見て!本物だよ!」
「そうだなあ」
「大将、挨拶ぐらいはさせてやれ」
「というかこの本丸はもう三日月がいるのか?驚きだな」
「あっ、この本丸は三日月さんはレアだけどレアではないので!えーどうしよう来て欲しかったけど何の準備もしてないよおおお」
「おちつけ夏継、茶でも淹れるか?」
「大将、嬉しいのは分かるが床に腕を押し付けるのはやめた方がいいぜ」
 どうしようと床を叩いていると、ことことと廊下を歩く音。開きっぱなしの鍛刀部屋の障子の奥、ひょこりと金色の髪が覗いた。
「あれっ鶴丸じゃん!主、鍛刀成功したんだな!」
「うわああああ獅子王君だー!!」
「大将、とりあえず落ち着け」
「幸福の過剰摂取であれるぎーを起こしているなあ」
「あれるぎー?とりあえず、獅子王は懐かしいな。御物だった頃に会ったことがある。あれは明治の頃か?」
「多分その辺だな!」
「ええええ推しの関係者ーーー!!」
「大将、手が痙攣してるぜ。ここから離れた方がいいと思うが」
「まずは遠目から見て慣れるべきだなあ。そこの鶴の世話係は獅子に頼めばよかろう」
 そこで三日月さんが私を支える。ありがとう三日月さん。そういえば私は三日月さんの顔面はとても綺麗だと思うけど、タイプというか推しの系統ではないんだよ。
「夏継、今失礼なことを思わなかったか」
「ナンデモナイデス」
「じゃあ獅子王、鶴丸の旦那を頼んだぜ」
「獅子王様に任せろってんだ!」
「だめ、推しがとうとい、だめ……」
「おい、あの審神者大丈夫か」
「あ、鶴丸さんはとても綺麗だけど個人的に病的に白く細く見えて怖いから燭台切さんにご飯二倍にしてもらうね」
「おい!!」
 今の一息だったぞと怒り半分笑い半分の鶴丸さんに、獅子王君は主の好みはよく分からないからなあと苦笑していた。推しは苦笑していても尊い。
「とりあえず大将はこっちだ」
「獅子よ、しっかり頼むぞ」
「分かってる!ほら鶴丸行くぞー」
「腑に落ちんな。まあ、支障はないからいいが。まずは本丸案内か?」
「おう!歩きがてら皆を紹介して、正式な紹介は、いつも通りなら夕餉だ!」
「推しの声が聞こえる……」
「ダメだなこりゃ」
 薬研君に呆れられながら、私は自室に寝かされたのだった。

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