05:秋田藤四郎の修行


【夢主視点】


 秋田君が、話があると言い出した。

「えっ、あんまり出陣に組み込んでないの不満だった?! そりゃそうだよね、里だけじゃ刀がなまるよね?! でも秋田君が折れたら私は私は」
「お、落ち着いてください主君!」
「でも、でも、」
「修行に行かせてほしいんです」
「やだあああああ」
「主君! 泣かないでくださいー!」

 秋田君がぽんぽんと背中を叩いてくれたので、私はなんとか落ち着く。私の初鍛刀こと秋田藤四郎は、私とずっと一緒にいてくれた刀だ。初期刀の加州君には出陣を任せ、審神者業の補佐をずっと頼んでいた。秘宝の里への出陣令が出てからは、里への出陣を秋田君に任せ、加州君には審神者業の補佐を頼んだ。つまり里の時だけ逆にしているわけで。ってそういえばこの間の里で秋田君、カンストしたんだった。
「もっと主君の手伝いができるようになりたいんです」
「でも秋田君が何日もいないなんて」
「たった数日ですよ!」
「でもーー!」
 主君、と秋田君が笑った。私が審神者になった時から変わらない、安心するその笑顔に、秋田君は本気なんだなと感じられた。
「主君が大切にしてくれているのは分かります。でも、もっと強くなりたいんです」
「……わかった。あんまりグズグズしてちゃだめだよね、でも、手紙は必ず毎日出して、無事帰ってきてね」
「はい、もちろんです!」

 そうして秋田君が旅立ったわけだが。
「主ー仕事溜まってるぞー」
「獅子王君、秋田君は大丈夫だよね?」
「秋田も刀剣男士だろ、大丈夫に決まってるって」
 手紙も来てるだろと言われ、私はまた机に突っ伏す。秋田君が修行に出て三日目の夜。私は何も手につかずにいた。こんなんじゃ帰っきた秋田君に呆れられてしまうかもとは思うものの、小さくてふわふわでお外に出るのが大好きな秋田君の事が心配でならなかった。
「主ー、ご飯は食べてるー?」
「加州君、ごはんは食べてるよ」
「でも少ないよね、燭台切が不安がってたよ。あ、とりあえず出陣部隊は揃えたから。三日月も連れてくからね」
「私の初期刀めちゃめちゃ仕事してるすごい」
「秋田が修行に出たらこうなることは分かってたからねー、獅子王、留守は頼んだよ」
「任せろ!」
「おや出陣か」
「三日月さんいってらっしゃい……」
「てんしょんが低いな。獅子王、主を頼んだぞ」
「おう!」
 いってらっしゃいと手を振る獅子王君に、私は相変わらずダメだなあと頭を抱える。出陣部隊の見送りは秋田君の担当だった。それを獅子王君がやってくれただけでダメージを受けるなど、審神者としてダメすぎる。秋田君が恋しいと涙が溢れてくると、主さんと畑当番だった愛染君がやって来た。
「ほら、主さんの好きなトマト、持ってきたからさ」
「ありがとう、後で食べるね」
「今食べてくれよーぬるくなるだろ」
「あ、冷やしてくれたのか。ありがとう」
「明日帰ってくる秋田に元気な姿を見せないと、だろ!」
「トマトは栄養いっぱいだって秋田が言ってたしな」
「あ、それ、私が言ったことだ……」
 秋田君、覚えててくれたのかと笑みが浮かぶ。そうだ、トマトも、ごはんも食べて元気な姿で出迎えなければ、優しい秋田君は心配してしまう。
「強くなった秋田が楽しみだな!」
 ニッと笑った愛染君に、私はへらりと笑ってそうだねと返したのだった。

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