03:大切にしよう/みかさに


【審神者視点】


 例えば幸福がありまして。
「三日月さんにとって幸せな瞬間ってどんなこと?」
「主と居る時だな」
「えー、そんなまさかー」
「ほんとうだぞ?」
「嘘つきとも思ってませんよ」
 ただ、三日月さんにとってはそれが一番幸せって言えるものなんだろうな。私としては、私なんかよりもっと良い人がいると思うのだけど。私は刀同士の恋愛について特にお咎めするつもりもないから、本丸の中にだって良い人はいるだろう。人の形ではない生き物とだって、歓迎しよう。だからね、三日月さん。
「そのことが理解できなくても許してくれる?」
「許しを乞うのか」
「仕方ないよ、だって、神さまからの愛を突き返したいなんてさ」
 三日月さんは優しいからそうして何も言わなくでくれるけれど、本当だったら神様の愛を突き返すなんて恨まれてしまうだろう。祟られるかもしれない。それらをしない三日月さんはとても優しい。
 本当に、非の打ち所がないぐらいの、美しくて優しい人だと思う。だから私は三日月さんが好きだ。だけど、それを言うつもりはないし、もし三日月さんに言われても返事をするつもりはない。彼らは刀、人間とは生きる時が違う。
(人間とは違う私でも、永遠ではない)
 大好きな人がいない時間なんて優しい三日月さんに味合わせたくない。だから、大好きにならないように線引きをする。これがきっと正解。私と三日月さんが悲しまない、たったひとつの道。
「ねえ、三日月さん」
「ふむ、なんだ」
「私、三日月さんのこと、とても素敵な人だと思うよ」
 だから、私なんかを気にかけないで、もっと他の人を選んでね。


 例えば幸福がありまして。
「夏継は分かっていないな」
「何が?」
「俺はそんな夏継を含めた全てが好ましく思う」
 そんな手で引き下がるなんて思わないことだなと、なんだか普段らしくないと思えば、わかりにくく怒っているらしい。怒らせてしまったなあと、私はどこか他人事で彼を見上げる。
 暖かな春の日差しが差し込む部屋で、三日月さんはその穏やかな日差しの中で、私を見ている。慈しむように、この短い間に先ほどの怒りは消えたみたいだった。嗚呼、よかった。
「夏継は自分を大切にしない。それならば、俺が夏継を大切にしよう」
「……過保護ですよ」
「そんなことはないぞ」
 ほれ、泣くな。そう言って三日月さんは私を抱き寄せてくれたのだった。

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