02:春爛漫、来訪者アリ/みかさに


【審神者視点】


 本日の全てのノルマが片付いた頃。私はぐっと背伸びをしてから、よっこらせと立ち上がった。そういえば私はこの本丸で袴姿だ。正式な場では巫女装束、普段は適当な着物と袴を着ている。そんな袴を揺らしながら歩くと、春爛漫の庭先へと降りた。
「主どうした」
「あれ、三日月さん、お茶を取りに行ってたんじゃ」
「途中で平野に会ってな」
「平野君、お茶を持ってきてくれてたんだ」
 気が回るなあと笑えば、三日月さんはそうだなあと笑った。その綺麗な笑顔に、相変わらずの美形だと感心した。三日月さんの美形具合は他の追随を許さないものがある。見ていて圧倒されるほどに。
「写真撮っても加工とか要らないもんなあ」
「かこう?」
「いいの、気にしないで」
 それで、と私は小さな石ころを転がしながら言った。
「何かあったの?」
「いや、何もないさ」
「じゃあ私、お散歩してくるね!」
「俺も着いていこう」
「えー」
 たまには一人で出歩いてもいいだろうと思えば、一人は危ないからなと言われてしまった。エスパーか。
「三日月さん心配性が過ぎるよ」
「主なら心配しすぎることもないな」
「え、どういうこと?!」
「はっはっはっ」
 笑って誤魔化した三日月さんに、ずるい人だと言って、私はふと空を見上げた。するとゆらり、揺らめいて夕日のような影が差した。

「三日月さん!」
「あい、わかった」
 すると三日月さんが空から降ってきた女の子を抱きとめる。すぐに縁側に降ろすと、女の子はゆっくりと目を開いた。黄色とも白ともつかない髪の色、真っ青な目。綺麗な女の子だった。どこかで見たような気がするが、思い出せない。
「えっと、私ここで何を?!」
「あー、うん。私は夏継。貴女の名前を聞いてもいい?」
「萌です。上野萌(うえのもえ)」
「そう、萌ちゃんね。とりあえずすぐに帰れると思うから、少しお茶でもする?」
 ね、三日月さん。そう顔を上げれば、三日月さんはそれがいいと笑った。そんな私たちに萌ちゃんが目を丸くしているのを知らずに。

 萌ちゃんは中学生。学校のドアを通ったらここにいたとか。お茶を渡して会話した間に消えていたその子に、私は湯呑みは次来た時に返してもらおうと決めた。

 春のうらら。穏やかな空気の中で、三日月さんが笑ってる。
「主、そろそろ桜吹雪が見れるだろう」
「梅が終わって、桜が咲いて。そっか、もう散る頃なんだね」
 早いなあと言えば、三日月さんは楽しい日々は早いものさと嬉しそうに言っていた。

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