03:朝食を作りましょう

夢主視点


 朝日が昇った。私は徹夜明けの朝日を浴びながら、庭の朝顔の観察をする。細かく観察し、記録を残す。それが終わると着替えとシャワーを済ませた。さらに洗濯をし、乾燥機で乾きたての衣服に腕を通した。白いシャツ、赤いチェックのプリーツスカート、その上に白衣。今日は赤い紐をループタイのように付けて、いつもより少しだけ身なりに気をつける。私としては清潔感さえあれば何でも良いが、いつ他のアルケミスト達が抜き打ちチェックに来るか分からない。特に今日は初めて有碍書に潜書をする日だ。来る可能性が高いと踏んだ。
 台所に向かうと、適当に朝ご飯を作る。オムレツを作り、ソーセージを焼き、レタスをちぎる。今日は二人前作らねばと意識しながら量を調節しつつ、あまり慣れていない調理で怪我をしないように気をつける。そもそも料理は昔から私の担当ではない。この世界、この図書館に来てから何とか作り始めたことを考慮してほしいものだと、食通らしい文豪に文句を言いたかった。まあ、徳田先生が食通なのかは知らないが。
 そうして何とかオムレツが形になり、ソーセージを焦がさずに焼けた頃。匂いにつられたように徳田先生が台所に現れた。
「おはよう……何してるのさ」
「おはよう。調理よ」
 食堂で待っていてとオムレツを慎重に半分にしていると、何故か徳田先生が近寄ってきた。どうかしたのかと思いながらオムレツをそれぞれの皿に盛り付けていると、一寸と腕を掴まれた。タイミングを計ったようだが、急に掴まないでほしい。
「え、なに」
「火傷してるじゃないか」
「……本当ね」
 全く気が付かなかったと思いながら、彼に引っ張られるままに左手の人差し指を蛇口から流れる水道水に浸す。それが終わるとそこに居てと言われて、いつ見つけたのか、備え付けの救急セットを持ってくると火傷に効く薬を探して私の指へ応急処置を施した。
「ありがとう」
 素直にお礼を言えば、僕が、と徳田先生が口を開いた。
「次からは僕が料理を作るから」
「出来るの?」
「きみよりは手際良く出来るさ」
 本当かしらと訝しげに彼を見れば、きみは子供なんだからと、どこかムッとした顔で彼は言った。
「きみは子供なんだから、大人を頼ればいいんだ」
 分かったかと言われて、その真剣な面持ちに思わず頷く。そんなに真剣になることだろうか、そんな、私の怪我程度で。

 どこか腑に落ちない気持ちで彼の顔を眺めていると、目の下の隈に気がついた。眠れてないのと問いかければ、少しねと言われた。しかしその隈からして、一睡も出来なかったのではないだろうか。徹夜に慣れていてその分の体調管理が出来ている私と違って、転生したての文豪は体調管理が上手くできないのだろうか。じっと彼全体を見つめ、その奥の生命エネルギーを診る。機械を通してなくとも、少しは分かる。彼から発せられるうねるような生命エネルギーを肌で感じ取り、波があるなと眉を寄せた。本来、健康な人間の生命エネルギーには波など無い。波があるとすれば何か不調があるということだ。
 しかし、今の彼は私が何を言っても聞きそうにない。子供だからと言うより、私を認めていないのだろう。まあ、そうだろうなと思う。無警戒に何でもかんでも信じられても困る。
「とりあえず、朝食を食べましょう」
 自分の皿は自分で持ってくれるかしらと言えば、分かったよと徳田先生は自分の皿を持って、私と共に食堂へと向かってくれたのだった。

- ナノ -