02:異常と異常

夢主視点


 徳田先生に潜書は明日なので今日は自由に過ごしてほしいと伝え、唖然とする彼を横目に私は司書室に戻る。まずは転生成功の報告書を、そしてパッと見て気がついた徳田先生の異常をメモする。
 そう、徳田先生には言わなかったが、転生した彼には違和感があった。それは単純なもので、戦うためのエネルギーが足りないと感じたのだ。詳しいことは測定しなければ分からないが、今のままで戦闘へと送り込んでいいものか悩む。勿論、足りないと感じても彼のエネルギーは生身の人間である私より遥かに多いだろう。ただ、戦うには少ないと思ったのだ。
 レベルや開花という強化法があるとも資料で知っている。ただ、レベルを上げるには戦闘へ送り込まなければならないし、開花もまた材料は本の中。それに戦うために転生した文士は戦ってこそなのだろう。潜書させないでいるのはストレスに繋がるのではと、帝国図書館の司書が論文で発表していたのを思い出した。やはり、宣言通りに明日は潜書させるべきだろう。戦えなければ、強制帰還しても構わない。転生は想像よりエネルギーの消費が少なかったので、明日には強制帰還が可能なほどのエネルギーが回復しているだろう。
 さらさらと報告書などの書類を片付けると、もう時間は昼頃だった。今日は料理を作る時間がない。仕方ないかと近くの中華料理店に出前を頼むことにした。

 本を読んでいた徳田先生を見つけて、中華料理店に届けてもらった出前を食べる。勝手にラーメンとチャーハンを頼んだが、徳田先生は文句を言わずに食べてくれた。そういえば文士は食に煩いんだったと思い出し、次からはちゃんと要望を聞こうと、私は無言で料理を胃に流し込んだ。

 再び司書室に戻り、カリカリと万年筆で書類を片付けているとあっという間に日が暮れてくる。異端視され、煙たがられている私の元には様々な書類が舞い込む。私をこの図書館から出さぬ為でもあるのだろう。それにしてもこんな雑用は皆で分担すればいいものをと考えていると、ふと扉が開いて徳田先生がやって来た。部屋を伝えてなかったかと椅子から立ち上がれば、ねえと声をかけられた。
「ねえ、」
「ごめんなさい、部屋に案内するわ」
「ああ、うん」
 何故か眉を寄せた徳田先生を疑問に思いながら、私は彼を部屋に案内した。
 司書室と私の寝室の近く、図書館にも近い部屋に案内する。事前に部屋を掃除しておいて良かったと安堵し、じゃあ私は仕事があるのでとその場から去ろうとすれば、あのさと声をかけられた。
「あのさ、もうこんな時間だけど」
「そうね」
「子どもはもう寝るものだよ」
 さっさと寝たほうがいいと言われ、私は思わず眉を寄せた。胸がざわざわと落ち着かない。
「そうだとしても、貴方には関係ないわ」
 不機嫌な声が出てしまっただろうか。しまったなと思いながらも、確かに一般的にはもう子供は寝る時間だろうと考える。だが、仕事は終わらせねばならないし、研究も進めるべきだ。

 でもそれらは言い訳でしかなく。本当のところ、私は寝なさいなどと何の他意もなく子供扱いされた事は無いに等しい。だからこんなにも胸がざわつくのだろう。焦りながら口を開いた。
「おやすみなさい」
「……おやすみ」
 私はそうして逃げるようにその場から立ち去ったのだった。

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