【夢主視点】


「寝坊した!」
 そう言って食堂に駆け込んできた太宰さんに、そんなに焦らなくても大丈夫だよと僕は笑った。
 朝食は近所のパン屋さんで買ったフランスパンをサンドイッチにしたものだ。具は卵とハム、胡瓜にレタスだ。
「だけど、太宰さん転生してから寝坊してばかりだね。何か体調が悪かったりする?」
 コーヒーを彼へと運べば、太宰さんは目をそらして、体は大丈夫と言った。
「何ていうか、眠れなくってさ」
「眠れない?」
「眠れないのは前からなんだけど、最近ちょっと考え事しちゃって」
「そうなんだ。うーん、僕じゃ相談相手になれないかな……」
 まだ若いしとぼやけば、太宰さんはハハハと乾いた笑いを零した。

 そういえば、と僕は太宰さんの食べた食器を洗いながら告げた。
「今日は徳田さんに有魂書へ潜書してもらおうと思ってるんだ」
「有魂書に?」
「戦力は多い方がいいからね」
 それは半分ほどが建前で、早朝に徳田さんへアルケミストの力について相談した結果だ。戦力、つまり戦える文士を増やせば怪我が減るのではないかということだ。一度に潜書出来るのは四人。ただし、疲労の具合からして、連続で潜書したら必ず怪我をするだろう。交代制が良いのでは、と話がまとまったのだ。
「ふうん。じゃあ今日は徳田以外休みなのか?」
「そうなるね」
 そっかと太宰さんは何か考えていた。文士たる彼らの豊富な知識を僕は一つも分からない。だから、彼の思考を邪魔しないように注意しながら、告げた。
「図書館内も町も、好きに出歩いてていいからね」
 お気に入りの場所があるといいねと笑えば、そうだなと太宰さんは呟いた。
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